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たまゆらの棘

第3章 螺旋

倫はテントの奥で体を売りながら思った。(外国に行けば…場所を変えれば何かが変わると思った俺が間違いだった。…自分が変わらなければ…何も…変わらない…)

サムは二重人格ではなかった。あれから倫には優しくなり、その優しさは谷口を思い出させた。無理やりセックスをすることもなくなった。そして倫から盗んだ金は残った僅かな金額だけ返してくれた。倫はもうすぐ二十一歳になろうとしていた。それまでに日本に帰りたかった。二十歳を過ぎれば戸籍を取りに行き自由に生きられるからだった。その話しをするとサムは倫を手離したくないが、日本に帰るのが倫の幸せなら協力すると言って、店番の時給を上げてくれた。

倫は考えていた。もう一度、アドニスで働かせて貰おうと。
「働く」…倫にとってそれは大きな課題だった。(あの頃は十六歳。あの頃とはもう違う。俺は大人になった。)働いて…勇気を出して…藤原を訪ねてみよう…もう終わったんだと自分から投げ捨てた恋人に…勇気を出して、今度は愛人の契約でなく、たいがいの一バーテンダーだが、恋人として付き合って貰えるように…

藤原の、横に並べる男になりたかった。

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