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アルカナの抄 時の掟

第8章 「隠者」正位置

ヴェキは再び馬を引き、話し始めた。カオルも続いて歩き始める。

「別の世界から来たのは、あなただけではありません。この世界のすべての人は、もとは別の世界にいました。あらゆる時代のあらゆる場所の人々で構成されているのが、この世界なのです」

「なるほど…?」
理解できているか微妙だったが、カオルはわかったフリをした。

「あなたのもといた時間では、あなたの歳は18。だからここでもそうなのでしょう。ですが私のいた時間でのあなたは、そうではないかもしれない。もっと歳をとっているかもしれないし、そもそも、存在していない可能性もあります」
イマイチ理解していないカオルを見抜いてか、ヴェキが具体的に言う。

「文化も言語も異なっていたかもしれません。この世界では、文化は融合され、言語は統一されていますが」

ああ、それで、外国みたいなのにすぐに言葉や文字に馴染んだのか、と違和感の正体を理解する。

「すべての者は、ここに来た時点でもとの世界の記憶は失われ、新たな記憶が与えられます。自分がいた世界の、存在自体を忘れている――それぞれに与えられた役をまっとうするために」

「私は記憶をなくしてないですよ?」

その通りだ。カオルは皇妃ではなかった自分を覚えているし、ここではない世界があることを知っている。

「まれに、あなたのように、この世界でももとの世界の記憶を持ったままの者もいます。恐らく、予定外にこちらへ訪れ、ここで過ごしながら自分の役割を見つける、または見つけた者」

「珍しいんですか?」

「ええ、かなり。私の知る限りでは初めてのことです。例外の一つですね」

「…例外が他にも?」

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