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アルカナの抄 時の掟

第8章 「隠者」正位置

「先ほども言いましたが、陛下も私も、セレナ・リーンの件について、当初は右大臣派の意思によるものだと考えていました。ですから、あなたを私のもとで預かることにしました」
彼らはまたあなたを狙うだろうと考えたためです、とカオルを見るヴェキの顔は、少し険しかった。

「セレナ・リーン、リーン家、右大臣と繋がっているのだろうと考え、まずリーン家を調べましたが、リーン家自体からはなにも出てきませんでした。セレナ・リーンが養女であるという事実以外は」
あまり公にしていなかったようですが、とヴェキは言った。

「私たちは次に、右大臣の身辺を調べました。そして彼女が右大臣の娘だということも、突き止めていました」

フレアのこと、ね。

「ですが、私が関与しているのはここまで。彼女を妃に、というのは、陛下の独断です。…そんな予感はしていましたけどね。恐らく、右大臣派への機嫌取りと、反応を見るということもあったのでしょうが」

私だけでなく、ヴェキさんにも言っていなかったんだ…。

「これを見てください」
ヴェキは一枚の紙を取り出す。そこには、冒頭に詩の書き損じのようなものが、その少し下には、数行の文が書かれていた。恐らく、こちらが本文だろう。

“セレナの背後にいるのは、どうも右大臣派ではないらしい。”

アルバートの字だ。ところどころ紙が焦げ付いている。

「…炙り出しでした」

“はっきりとはわからないが、相当大きな組織のようだ。”

大きな組織…。


“僕は、ヴェルテクス王国だと思ってる。”

ぱっ、とヴェキの顔を見た。先ほどよりも深く、眉間にしわを刻んでいる。

ヴェルテクス王国とは、黒龍の守護国だ。カオルが襲われたのも、それをかばいアルバートが負傷したのも――あるいは、元々アルバートも狙うつもりだったのかもしれないが――、それにより守護の力が衰えたのも、そのすぐあとに黒龍の攻撃を受けたのも、すべて繋がっていた…。

“ここまで抜かりなくしておいて、スパイが少女一人だけとは思えない。ヴェルテクスの手の者は、まだ他にもいると見て間違いないだろう”

つまり、国の転覆を狙い、ヴェルテクス王国がすべて仕組んでいたのだ。そしてそれを手引きする者たちが、宮殿内にいる。セレナはその一人だったにすぎない…。少なくともアルバートはそう考えているようだ。

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