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Memory of Night 番外編

第5章 美少女メイドを捕まえろ!


 宵は何も答えない。晃に両手をそれぞれ抑えつけられ壁に貼り付けにされたまま、ただ頭(こうべ)を垂れていた。


「そろそろ時間だね。ゲームオーバー……かな」


 晃は薄く笑って宵の手首を一つにまとめて抑えこみ、空いた片手で彼の顎を掴んだ。

 灰色のパーカーは彼には少し大きいらしく、深くかぶっているせいで表情がわからない。

 アイラインとシャドーに彩られた灰色の瞳は、悔しげに自分を睨みつけているのだろうか。それはそれでゾクゾクする。

 晃は彼の耳に唇を寄せた。


「何か言えよ。さもないとまたいじめちゃうよ」


 低く、囁くように挑発してやる。

 そうしながら宵の顎をくいっと持ち上げ、無理矢理顔を上げさせた。

 その時だった。

 グロスで艶めいた彼の唇が、笑みの形に変わる。


「――アッキーってさ」


 顔を上向かせられた反動で、鼻から上を覆っていたパーカーがはらりと落ちた。

 ようやく垣間見えたメイドの瞳は、想像していた灰色ではなく、薄茶色。


「普段の感じと違って意外とドSなんだね。そのギャップ……ちょっとイイかも」


 声も明らかに、男ではなく女性のもの。

 晃ははっとして手首を離し、彼女から一歩離れたが、すでに遅かった。


「――晃。ゲームオーバーはおまえ」


 後方からの聞き慣れたその声に、振り向く暇さえなかった。

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