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Memory of Night 番外編

第3章 熱々、バレンタインデー!


 宵は唇を噛みしめ晃を見上げる。

 灰色の瞳は、うっすらと濡れていた。


「俺とするの、いや?」


 その問いかけに、宵は首を振る。


「違う。けど……、こんなとこじゃ……」


 そうして一度、視線を辺りに移ろわせた。

 今のところ、自分たち以外に人の気配はない。

 それでもここは、一般の人が自由に出入りできる展望室だ。

 いつ他の客が訪れるともわからない。

 そんな場所でキスやそれ以上のことをするのは、いくらなんでもまずいと思う。

 宵の言葉に、晃は動きを止めた。表情を変えてにやりと笑う。

 捲り上げたセーターを直し、宵の、薄紅色に上気した頬を隠すように、コートの前を掛け合わせた。


「そんな顔で街歩いてたら襲われちゃうよ?」


 そうして、しれっと一言。


「はあっ? 誰のせいで……」


 無理矢理キスやらお触りをしてくるから、顔だって赤くなったのに。

 晃の言い草にむっとするも、宵が抗議し終わる前に、晃は宵の腕を引いてエレベーターに乗り込もうとしていた。


「続きは俺の家で」


 エレベーターが到着するのを待ちながら、宵の耳元でそんなことを囁く。


(……そーゆうことか)


 そこでようやく、晃の意図にぴんときた。

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