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胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】

第32章 変化(へんげ)

 少し離れた場所で、何人かの腰元がその光景を遠巻きに眺めていた。皆、蒼白である。恐らくは少女を助けてやりたいと思っても、何もできないでいるのだろう。いかにせん、相手が殿では止めようもない。
 少女は怯え切って、泣き叫んで暴れている。泰雅は少女が抵抗すればするほど面白いらしく、にやけきった顔で少女の身体をなで回していた。少女の姿は見るも無惨であった。片袖は千切れ、着物の至るところが引き裂かれ、破れている。帯は既に解かれてしまったのか見当たらず、緩んだ腰紐だけであった。胸許は大きく開かれ、まだ稚い二つの膨らみがちらりと覗いている。裾は乱れて割れ、白い脹ら脛があらわになっている。何ともしどけない姿であった。
 この少女が、どのような目に遭っていたかは明らかだ。
「何をそのように嫌がるのだ、この俺が直々に可愛がってやろうというのだ。そのように怯えることもなかろう。女子は素直な方が良いぞ」
 泰雅は顔を覗き込むようにして言い聞かせるが、少女は泣きながら首を振るばかりだ。
 〝お許し下さいませ〟と消え入るような声が聞こえた。
「殿、これは、一体、いかなることにございますか!?」
 泉水は泰雅に非難のまなざしを向ける。
「ホウ、そなたが灼くとは珍しきこともあるものよの」
 泉水は、あまりにも自分本位な泰雅の発言に呆れた。
「私は嫉妬など致してはおりませぬ。ただ、年端もゆかぬ娘に、そのようなご無体をなさるのは、いかがなものかと申し上げておりまする」
「フン、この娘はもう十四、立派な大人じゃ」
 吐き捨てるように言うのに、泉水は柳眉をひそめた。
「何と、まだ十四の子どもをそのような酷い目に遭わせるとは。非常識もたいがいになされませ」
 泰雅の眼が剣呑な光を帯びた。
「若いゆえ、良いのだ。そなたのように生意気にならぬ中に、若い中からこの俺が直々に仕付けてやろうというのではないか」
「私が生意気と、そう仰せになられますか」

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