
胡蝶の夢~私の最愛~⑪【夢路・ゆめじ】
第8章 予期せぬ災難
「いや、勘違いして貰っちゃ困る。俺は確かに、お前を何度も着替えさせたり、身体を拭いたりはしたが、何も悪戯なんかはしてねえ。そりゃア、身体というか、裸は見たよ。見ようとしなくても、嫌でも眼に入っちまうからな。だが、誓って言うが、指一本触れちゃいねえ」
泉水の頬がうす紅く染まった。
「ごめんなさい」
恥ずかしさのあまり、誠吉の顔をまともに見られない。
「いや、俺の方こそ―その、何て言えば良いのか判らねえけどさ、何もしてねえっていうのは本当だからさ、それだけは信じてくんな」
口は悪いが、根は正直な男なのだろう。誠吉の方もしどろもどろになって言う。
「そう言やア、お前のあの格好は、どう見ても町人じゃねえな。恐らくはお武家の娘だろうよ。その辺が手がかりにはなるだろうがな」
誠吉が腕組みをする。
「私の着ていたものや刀は、どこにありますか」
泉水が問うと、誠吉は〝ああ〟というように頷いた。
「ちゃんと洗ってしまってある。刀の方も無事だから安心しな。それにしても、女だてらに、よくあんな物を持って歩いてるな。つくづく風変わりな女だぜ」
誠吉は珍しいものでも見るように言い、笑っている。と、誠吉が思い出したように言った。
「オウ、そう言えば、大切なことを忘れちまってた」
誠吉は懐から何やら取り出した。
「これをお前が持ってたんだ」
おもむろに差し出されたのは、一本のすかんざしである。黄楊でできた玉かんざしは、誠吉が振ると澄んだ音を奏でた。
「事故に遭った時、お前の着物の懐に入ってたぜ」
「これ」
泉水は受け取ったかんざしをじいっと見つめた。
懸命に何か思い出そうとする。喉元に何か小さなものが引っかかっているようなもどかしさがある。泉水は何とかそれを引っぱり出そうとしてみるのだが、何も出てこない。
「駄目、思い出せない」
泉水は唇を噛んで首を振った。
「どうしてなのかしら、自分の名前どころか、どこに住んでいたかも判らないだなんて」
涙が溢れた。
泉水の頬がうす紅く染まった。
「ごめんなさい」
恥ずかしさのあまり、誠吉の顔をまともに見られない。
「いや、俺の方こそ―その、何て言えば良いのか判らねえけどさ、何もしてねえっていうのは本当だからさ、それだけは信じてくんな」
口は悪いが、根は正直な男なのだろう。誠吉の方もしどろもどろになって言う。
「そう言やア、お前のあの格好は、どう見ても町人じゃねえな。恐らくはお武家の娘だろうよ。その辺が手がかりにはなるだろうがな」
誠吉が腕組みをする。
「私の着ていたものや刀は、どこにありますか」
泉水が問うと、誠吉は〝ああ〟というように頷いた。
「ちゃんと洗ってしまってある。刀の方も無事だから安心しな。それにしても、女だてらに、よくあんな物を持って歩いてるな。つくづく風変わりな女だぜ」
誠吉は珍しいものでも見るように言い、笑っている。と、誠吉が思い出したように言った。
「オウ、そう言えば、大切なことを忘れちまってた」
誠吉は懐から何やら取り出した。
「これをお前が持ってたんだ」
おもむろに差し出されたのは、一本のすかんざしである。黄楊でできた玉かんざしは、誠吉が振ると澄んだ音を奏でた。
「事故に遭った時、お前の着物の懐に入ってたぜ」
「これ」
泉水は受け取ったかんざしをじいっと見つめた。
懸命に何か思い出そうとする。喉元に何か小さなものが引っかかっているようなもどかしさがある。泉水は何とかそれを引っぱり出そうとしてみるのだが、何も出てこない。
「駄目、思い出せない」
泉水は唇を噛んで首を振った。
「どうしてなのかしら、自分の名前どころか、どこに住んでいたかも判らないだなんて」
涙が溢れた。
