
夢のうた~花のように風のように生きて~
第4章 運命の邂逅
「それは良かったわ。じゃあ、これからも頑張って、どんどん徳松さんの苦手な物をなくさないといけないわね」
徳松は、そんなお千香を眩しげに眼をしばたたかせて見つめた。
「な、お千香ちゃん」
「なあに?」
時折ハッとするほどの艶麗さを見せるかと思えば、こんな少女のように無邪気な表情を見せるお千香であった。健気に生きようとしているその一生懸命な姿がいじらしい。
小首を傾げるお千香を、徳松はふいに抱きしめてやりたくなった。だが、お千香との誓いを破りたくはない。
何より、分別のない獣のような男だとは思われたくなかった。
「俺と―所帯を持っちゃくれねえか」
「え」と、お千香が眼を瞠った。
「その、何だな、俺はお千香ちゃんのこしらえた卵焼きをこれからもずっと死ぬまで食べてえんだよ」
「徳松さん、私」
言いかけるお千香に、徳松は真顔で首を振った。
「良いんだ、返事はゆっくりと考えてからで良い。ただ、俺の気持ちだけはちゃんと伝えておこうと思ってさ」
「ありがとう、徳松さん」
嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。
好きな男にこうも直裁に告白されて、こんなに嬉しいものだと考えたこともなかったのだ。
「何だよ、求愛をしたのに、礼を言われるってえのも妙だよな」
徳松は照れたように笑った。
「じゃあ、行ってくるよ」
片手を軽く上げ、いつものように家を出てゆく徳松をお千香は三和土に佇んで見送った。
お千香はぼんやりとして、上がり框に腰を下ろした。徳松の気持ちは心底嬉しい。お千香もまた徳松に惚れているのだ。両想いだと判った今はなおのこと、幸せな心持ちになれるはずだった。
しかし、お千香には気がかりがあった。お千香には現在、定市という良人がいる。手込めにされた翌朝、まだ熟睡している定市の傍から逃げるようにして美濃屋を出た。
徳松は、そんなお千香を眩しげに眼をしばたたかせて見つめた。
「な、お千香ちゃん」
「なあに?」
時折ハッとするほどの艶麗さを見せるかと思えば、こんな少女のように無邪気な表情を見せるお千香であった。健気に生きようとしているその一生懸命な姿がいじらしい。
小首を傾げるお千香を、徳松はふいに抱きしめてやりたくなった。だが、お千香との誓いを破りたくはない。
何より、分別のない獣のような男だとは思われたくなかった。
「俺と―所帯を持っちゃくれねえか」
「え」と、お千香が眼を瞠った。
「その、何だな、俺はお千香ちゃんのこしらえた卵焼きをこれからもずっと死ぬまで食べてえんだよ」
「徳松さん、私」
言いかけるお千香に、徳松は真顔で首を振った。
「良いんだ、返事はゆっくりと考えてからで良い。ただ、俺の気持ちだけはちゃんと伝えておこうと思ってさ」
「ありがとう、徳松さん」
嬉しかった。涙が出るほど嬉しかった。
好きな男にこうも直裁に告白されて、こんなに嬉しいものだと考えたこともなかったのだ。
「何だよ、求愛をしたのに、礼を言われるってえのも妙だよな」
徳松は照れたように笑った。
「じゃあ、行ってくるよ」
片手を軽く上げ、いつものように家を出てゆく徳松をお千香は三和土に佇んで見送った。
お千香はぼんやりとして、上がり框に腰を下ろした。徳松の気持ちは心底嬉しい。お千香もまた徳松に惚れているのだ。両想いだと判った今はなおのこと、幸せな心持ちになれるはずだった。
しかし、お千香には気がかりがあった。お千香には現在、定市という良人がいる。手込めにされた翌朝、まだ熟睡している定市の傍から逃げるようにして美濃屋を出た。
