
燕尾服は似合わない
第3章 初めての仕事
学長室を出た伊織が向かったのは、
新学期説明会を控えた体育館だった。
俺が拘束されている間に、ほとんどのクラスはすでに移動を終えていたらしい。館内は、新学期への期待に胸を膨らませた生徒たちで溢れ返っていた。
談笑する声があちこちから聞こえる。
そんな中、伊織は脇目も振らず、ステージ裏へと歩いていく。
その途端、館内がざわめいた。
「神城くんと御影さん?」「何しに来たんだ…?」
そんな声が耳に入ってくる。
無理もない。
俺と伊織が一緒にいる。
誰が見たって不釣り合いな組み合わせだった。
ステージの裏まで来ると、演台の上にスタンドマイクが1つ。
その横には、「新学園長 挨拶」と大きく書かれた資料があった。
「なんだ?これ。」
その資料を手に取ると、伊織が口を開いた。
「本日の新学期説明会で薫様が学長就任のご挨拶をされます。
私たち執事はそのサポートをさせていただきます。」
「サポート…?間違えたら間違えてますよーって言うとか?」
「…違います。薫様は間違いません。
事前のマイク調整、電源のオンオフから資料のお手渡し…。
薫様が躓かれないよう足場の確認をし、動線を考える。
万が一、不届き者がステージに侵入した場合の立ち回りなど。これから行われる薫様のステージが完璧なものになるように備えるのです。」
「え…?執事ってそこまでしてんの…?」
薫が伊織を過保護だという理由がわかった気もするが、執事界隈ではそれが当たり前なのかもしれない。
この世界に対して知恵が無さすぎる俺には判断ができなかった。
だが、伊織は「当然だ」と言わんばかりに鼻を鳴らした。
「本来であれば…早速実践を…といったところですが…わたくしも鬼ではございませんので。
本日は生徒のひとりとして、わたくしの動きをよくご覧なさい。
執事たる者の振る舞いを頭に叩き入れるのです。」

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