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燕尾服は似合わない

第2章 選ばれた問題児

「ふふ、ごめんね。
 さっきも伝えたけど、伊織は少し僕に過保護なんだ。

 伊織が言うように、君がいい子にしていれば僕たちが君に恐怖を与える…なんてことはもちろんないから安心して欲しいな。」

「…わかりました。」

 "いい子"——17年生きてきて、その言葉の意味を未だに理解できてない自分がいた。

大人が子供を自分たちの理想に当てはめるための、便利な言葉。

俺にはずっと、そう見えていた。
だから反抗してきたのかもしれない。

 今まで"いい子"でいることから逃げてきた俺にとって、
 その言葉に向き合うのは簡単では無い。

 だがそんな屁理屈はこのふたりを前にして通用するはずがなかった。


「…ここから——今まで好き勝手生きてきた君にとって、過酷な日々が始まるだろうね。

 逃げ出したくなることも山ほどあるだろう。

 暴力なんて以ての外。
 感情だって抑えないといけないし、
 自分の気持ちを押し殺して白を黒と言わなければならない時もある。

改めて聞こう。

 君は——僕の専属執事になる覚悟はあるかい?」

 ほんの数時間前の俺なら、「ねえよ」と一蹴りし、椅子にもたれたまま鼻を鳴らしていただろう。
 それがカッコイイ、強さだと思って。

 だが、今の俺にその選択肢はない。
 学校に残るため。
 全てを失わないため。

 ——覚悟。

「…おう。


 俺、執事やるよ。


 あんたの世話でもなんでも、やってやるよ。」

 
「はは、いい目をしているね。

 君に声をかけて正解だったよ。」


薫は満足そうに目を細めた。

 パン、と薫がひとつ手を叩くと、
 伊織が廊下へと続く扉を開いた。

「さっそく君に仕事を与えたい。

 詳しいことは伊織に。

 よろしく頼んだよ。」

「かしこまりました。
 参りましょうか、神城くん。」

 短く告げ、そのまま廊下へと出ていく。
 俺は慌てて立ち上がった。


 退学寸前の崖っぷち不良高校生の俺が、今日から執事。

どう考えても似合わない。

 それでも、もう後戻りはできない。

 俺は伊織の背中を追いかけるように、学園長室を後にした。

 

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