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リーニエント

第9章 ニゲラ


「帰ろ、千種(ちぐさ)」

「……黒谷(くろたに)」

「今日も雨でさ、部活休みなんだ。一緒に帰ろ?」

「……っ」

その言葉に、千種は喉が渇いたようにひりつく。
息を飲むのと同時に教室内もざわついていた。
注目の渦中は黒谷だ。無理もないと、千種は心の内で溜め息を吐く。
別のクラスである黒谷。彼は二年に上がった頃から強豪サッカー部の次期キャプテンと噂される程、学校内では有名人である。
まさかわざわざ教室まで訪れるなんて。千種は彼の行動と発言に答えることが出来ず、机の上に置いた鞄の持ち手を握り締めた。

微かに感じる視線と、ヒソヒソ話。
気持ち悪い……。千種の額には汗が滲んだ。
自分のクラスとは言えとても居心地が良いとは思えず、居たたまれなくなった彼女は黒谷を残すように教室から出ていく。


───やってしまった……どうしよう。

千種は抱えていた鞄の形が変わるほど力をこめた。
彼と一緒にいるのは楽しいが、周りの目を気にし過ぎてしまいつい可愛げの無い態度となってしまう。
人気者の友達って疲れる……。
一年の頃同じクラスになった事が縁で、仲良くなった千種と黒谷。
身体の成長と共に一人の男性として彼に惹かれ始めた頃、既に黒谷は注目される人物。
千種は友達のままで居ることを決め、今に至る。


「雨……?」

廊下に出た千種は、窓から外を眺めた。
止めどなく降り注ぐ雨に息が詰まるようだと、眉を寄せた。

『千種……千種、好き』

全身を包む様に甘く名前を呼ばれて、紡がれた特別な言葉。
数日前に黒谷から告げられたあの日も、雨が降っていた。

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