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リーニエント

第8章 ペチュニア



ぎゅううっと力が込められ、あすかは痛みに耐えるように彼の名を口にする。

はつくん─羽衝(はつき)は、伏し目がちに彼女を見つめた。
睫毛の影が掛かる瞳は暗く揺らいでいて、あすかは一瞬冷ややかな物が背筋に流れるのを感じる。

ああ、またやってしまった。馬鹿だと後悔しても、既に遅いと身体が固まってしまう。

「離したくないな」

「え、でも、きゃあっ」

空いた片方の手で繋いでいたあすかの手の甲を覆うと、そのまま口許へ寄せる。

「はつくん、何してるの」

「ずっと繋いでいたいんだけど、あすかは違うの?」

「だって……汗っっ」

じわり。
再度手の中から汗が滲む。
あすかは恥じらうように、羽衝から視線を逸らした。


「やだ、離してっ……離そ?」

「ダメ」

「はつくんっ!」

「なあに?」

ああ、ダメだ。彼の破顔した表情を見つめたあすかは、逃げられない事を悟った。
羽衝はとても楽しげに繋いだ手をぶらぶらと弄ぶ。

あすかが頑なに抵抗すればする程、羽衝は絶対に引き下がろうとはしないだろう。

幸せそうな彼の顔が少し歪む。

「泣かないで、あすか……でも、その顔も可愛いね」

歪んだように見えたのは、涙の所為だった。
溜まる涙を吸い取るように、目許へ羽衝の唇が近付く。
時々泣きたくなる程の羞恥を受けて怖くなる時もあるけれど、やっぱり彼の事が大好きだ。
あすかは羽衝へ微笑むと、胸元へ寄り掛かった。


end
20260708

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