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コーヒーブレイク

第3章 贖罪のとき

写真部の部室なのに、暗室がない。代わりにパソコンが4台もあった。
私は、パソコンのディスプレイの向こうに、クラスメイトにして部長の長岡小夜子を見つけた。
「いらっしゃい。できてるわよ」

私の手に大きな封筒が載せられる。

「大野香織に寛大な処分を求める嘆願書」だ。

「私のかわいい部員は、全員署名したから」
「ありがとう。助かる。で、その部員さんたちは?」
部室には小夜子ひとりだった。
「外で自由に撮影してる」
「そう」
封はしていないから、嘆願書を出してみる。
私が草案を作り、久美が手直しし、紫がパソコンで清書した趣意書に署名欄をつけたもの。とあるSNS上でデータを授受したから一晩で完成した嘆願書だった。

「要望欄が空白よ」
「クラスメイトに何を要望しろっていうのよ?」

趣意書の末尾に「生徒会への要望」という欄が設けてある。
見返りを求めていいから、署名して下さいという意味だった。
多くの部活は「予算アップ」と記入していたが、柔道部のリクエストはユニークだった。
明らかに久美の字で、「合宿に参加して、後輩たちに美味しい食事を作ってあげて下さい」とあった。

「だいたい、生徒の嘆願書は要らないと思うよ」
小夜子が言う。
「え? なんのこと?」
「被害者サイドから嘆願書が届いたらしいよ。しかも、たくさんの署名が付いてたとか」
初耳だった。
「じゃ、被害者のかたも同じことをしてたっていうの?」
「そういうことでしょ」

何か、力が抜ける思いがした。

「ひょっとして、がっかりしてる?」
「少しはね」

沈黙が流れた。

不意に小夜子が立ち上がる。
「個人的なリクエストでもいいかな?」
「・・・・・・何?」
「規子の過去は聞いてるけど、『見た』ことがないから・・・・・・」

小夜子は壁のホワイトボードに、
「肌を見せて誠意を示せ」と書いた。
そして、神妙な表情で私を見る。

そうか、クラスメイトはたいてい「人殺し規子」を知ってるんだった。

「いいよ。顔出し写真もOKだよ」
私は胸のボタンを外していく。
最後のショーツに手をかけたとき、さすがに小夜子がストップをかけた。

「実際に見ると過激だね・・・・・・撮らないでおこうか?」
と訊いてきたが、
「これが私よ」
と私は応じた。

傷が消えることはないのだ。

体の傷も。
心の傷も。

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