テキストサイズ

コーヒーブレイク

第2章 陰謀をめぐらせるとき

「ただいまの決まり手、払い腰~~」
一年生の書記、中尾紫(ゆかり)が間抜けな声を出した。
「懸賞金がもらえるのか?」
久美がクールに応じる。

私は、フリーズしたままの清水鏡子を見上げる。

そんな鏡子に久美が優しく語る。
「清水さん、こんな生徒会長はほっときましょう。
これからは風紀委員会が味方になるわ。
できる限りのことをする。
だから、あなたもあきらめないで」
うわっ、気持ち悪い。久美が少女漫画してる。

でも、鏡子には通じたらしい。
泣き出しそうになる彼女を慰める久美。おいしい役だよなぁ。

ぴろぴろーん。

久美と鏡子がメアド交換したようだ。
女子高生してるなぁ。

鏡子は、寝ている私に目礼して部屋を出て行った。言うべき言葉が見つからなかったようだ。

なおも私が床でフテ寝してると、
「スカートの中を覗きたいのか?」
男言葉に戻った久美が見下ろしてきた。
「誰が、久美のパンツなんか……」
「かわいいの穿いてるぞ」

とりあえず、立ち上がる。

「怪我はないか?」
「遅い」

椅子に座るとお尻にズキッときたから、座り直す。
紫がそれに気づいた。
「痛いんですか? 芝居じゃなかったんですか?」
「途中で我を忘れた」
平然と久美が言う。
「結果オーライ」
私も、なるべく普通に言った。

「なんか、納得いきません」
紫が言う。
「こんな芝居をする必要がどこにあるんですか」

来た。当然の疑問だ。

とりあえず、デフォルトの模範回答。

「『ゴミ』なんて暴言を吐いたことを反省した生徒会長の私は、罪滅ぼしのために何かできないか、と考える」

久美が引き継ぐ。
「そして、退学処分回避を求める署名活動を思いつく」

私が引き取る。
「こうして生徒会長は、一人の生徒のために東奔西走する口実を得る」

どう? 完璧でしょ。

「なるほど、罪滅ぼしですか……」

頼む、納得してくれ。

「半分は嘘ですね。もっと大きなことを隠してますね。もっと大きな罪。その罪滅ぼしというか、埋め合わせをしたいんですよね」

久美の顔色が変わった。それは私も同じだろう。

「無駄だったようだぞ」
久美が言う。

一年生さえ、ごまかせなかったか。

「そうよ。私はね……」

なおもためらう私を、励ますような久美の優しい目。

ありがとう。
じゃあ、言うよ。

「私は、人を殺したことがあるの」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ