
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第3章 接近~近づいてゆく心~
大妃の居室は、実にきらびやかに飾り立てられていた。座椅子の背後には、満開の梅の花と鶯を描いた見事な衝立があり、不老長寿を象徴する桃の鉢植えを玉で細工した置物など、とにかく綺麗なもので溢れている。
派手好きな性格を物語るかのように、化粧も濃く、手には幾つもの大きな指輪が嵌められていた。
莉彩を引きずってきた女官たちは、大妃の前に莉彩を放り出した。いきなり手を放され、莉彩はしたたかに腰を打ちつけてしまう。
思わず小さな呻き声を洩らした莉彩を、上座に座った大妃が冷ややかな視線で眺め降ろしていた。
「大妃さま。これは、いかなることでございましょうか?」
莉彩は痛む腰をさすりながら、それでも端座する。平伏しながらも、凜とした声音で問う莉彩に、大妃の柳眉がつり上がった。
「何と生意気な娘か。殿下のご寵愛をお受けしたからとて、そなたはまだ位階も持たぬ、いわば一介の女官であるぞ。正式な側室でもない者がかような怖れ気もない物言いをするとは、何と末怖ろしい」
莉彩は予想外のなりゆきに、絶句した。
「たかだか数度、殿下のお褥に上がったからと申して、思い上がるのもたいがいにするが良い」
大妃の声が怒りにわなないている。
莉彩は、たまらず顔を上げた。
「大妃さま、何かの間違いにございます。私は国王殿下のご寵愛を受けてなどおりませぬ」
「この期に及んで、偽りを申すというのか! 大殿付きの劉尚宮からも既に報告が参っておる。殿下が何度か臨莉彩と申す若い女官と共に夜をお過ごしになっているとな」
「そんな―」
莉彩は言いかけて、ふと思い当たった。
深夜、王とひそかに逢ったことは確かにある。わずか二度のことではあるが、最初は空き部屋で夜明け近くまで一緒にいた。二度目は昨夜、王が忍んで莉彩の私室を訪ねてきた。
だが、二人の間には何も起こらなかった。他人からとやかく言われる疚しい問題は何もないのだ。
とはいっても、国王たる尊(たっと)い身分の人が女官と同じ部屋で一夜を過ごせば、周囲にとっては〝同衾した〟と考えるのが当たり前なのだろうか。しかし、莉彩には全く身に憶えのないことだ。たったそれだけで、王のお手つき女官だと思われては、たまらない。
派手好きな性格を物語るかのように、化粧も濃く、手には幾つもの大きな指輪が嵌められていた。
莉彩を引きずってきた女官たちは、大妃の前に莉彩を放り出した。いきなり手を放され、莉彩はしたたかに腰を打ちつけてしまう。
思わず小さな呻き声を洩らした莉彩を、上座に座った大妃が冷ややかな視線で眺め降ろしていた。
「大妃さま。これは、いかなることでございましょうか?」
莉彩は痛む腰をさすりながら、それでも端座する。平伏しながらも、凜とした声音で問う莉彩に、大妃の柳眉がつり上がった。
「何と生意気な娘か。殿下のご寵愛をお受けしたからとて、そなたはまだ位階も持たぬ、いわば一介の女官であるぞ。正式な側室でもない者がかような怖れ気もない物言いをするとは、何と末怖ろしい」
莉彩は予想外のなりゆきに、絶句した。
「たかだか数度、殿下のお褥に上がったからと申して、思い上がるのもたいがいにするが良い」
大妃の声が怒りにわなないている。
莉彩は、たまらず顔を上げた。
「大妃さま、何かの間違いにございます。私は国王殿下のご寵愛を受けてなどおりませぬ」
「この期に及んで、偽りを申すというのか! 大殿付きの劉尚宮からも既に報告が参っておる。殿下が何度か臨莉彩と申す若い女官と共に夜をお過ごしになっているとな」
「そんな―」
莉彩は言いかけて、ふと思い当たった。
深夜、王とひそかに逢ったことは確かにある。わずか二度のことではあるが、最初は空き部屋で夜明け近くまで一緒にいた。二度目は昨夜、王が忍んで莉彩の私室を訪ねてきた。
だが、二人の間には何も起こらなかった。他人からとやかく言われる疚しい問題は何もないのだ。
とはいっても、国王たる尊(たっと)い身分の人が女官と同じ部屋で一夜を過ごせば、周囲にとっては〝同衾した〟と考えるのが当たり前なのだろうか。しかし、莉彩には全く身に憶えのないことだ。たったそれだけで、王のお手つき女官だと思われては、たまらない。
