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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

 が、ここで何をどう言えば良いのだろう。
 王と忍び逢っていたことを詳しく話せば、王の体面や権威に傷がつく。国王が夜中に宮殿内をふらふらと歩き回り、女官と戯れている―、結局は二人の間に何かあるのではと余計に勘繰られてしまうだろう。
 つまり、今、ここで何を訴えたとしても、言い訳としか受け取られないということなのだ。
 莉彩は唇を噛みしめた。それでも、このまま黙っているわけにはゆかない。莉彩一人なら、傷つくほどの体面も何もあったものではないが、王にまで迷惑がかかるかと思うと、あまりに哀しかった。
「大妃さま、どうかお聞き入れ下さいませ。私と殿下の間には、真に何もございません。誓って、疚しいことなど何一つないのです」
 とにかく誠心誠意言葉を尽くすしかないと思い、莉彩は同じ科白を繰り返した。
「そなたは殿下の乳母臨尚宮の養女だというではないか。十年も前に宮廷を去った臨尚宮が今頃になって、何ゆえ、己れの息の掛かった女を殿下に近づけて参ったのか」
 含みのある言葉だ。莉彩は眼を見開いた。
「そなたが入宮以来、殿下がいたくご執心されていると聞き、色々と調べさせた。殿下には現在、中殿どころか側室の一人もおらぬ淋しいご境遇。既におん年三十であられながら、世子(セジャ)もおられぬ。今後、殿下の側室となる娘には是が非でも王子を生んで貰わねばと皆が思うておるゆえ、身分の低い者を迂闊にお側に上げるわけにはゆかぬのだ」
 莉彩は毒々しいほど紅い大妃の唇が動くのを唖然として見つめていた。
「聞けば、そなたは表向きは臨尚宮の養女となってはいるが、身寄りもなく、あまつさえ、氏素性の知れぬ娘というではないか。行き倒れておったところを臨家に拾われたという話さえある。そのような賤しき者を畏れ多くも殿下のお側に送り込むとは、臨尚宮はあまりにも不敬である。ゆえに、私はいかに殿下がそなたをご寵愛なされようと、けして側室として認めることは叶わぬと申し上げるつもりだ」
 大妃がしてやったりとばかりの顔で断じる。
「賤しい者ほど罪を犯しやすいと申すが、可愛い顔をして怖ろしきおなごだ。どのような手練手管で殿下に近づき、骨抜きにしたものやら、まるで泥棒猫のようだな」
 その時、何かが莉彩の中で弾けた。

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