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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第3章 接近~近づいてゆく心~

 だが、単なる知識として持っているものと、それが現実に自分の身に降りかかるとなれば、話は全く違う。いかに莉彩が王を恋い慕っていようと、今の莉彩には到底、王を受け容れる心の準備はできていないのだ。
 そのことで、王の心が莉彩から離れてしまったのだとしても、王を恨むのは筋違いだし、その原因を作ったのは、莉彩本人だろう。
 昨夜のことを思い出しただけで、また新たな涙が湧く。滲んできた涙を手でゴシゴシとこすり、気を取り直して再び洗濯物に取りかかろうとしたそのときのことである。
 向こうから、女官たちの一団が現れた。
 ゆうに十数人いる若い女官を引き連れ、年配のベテラン女官が先頭に立って歩いてくる。
―一体、何事?
 莉彩が眼を瞠っていると、集団は次第にこちらへ向かってくる。
 ほどなく、莉彩は大勢の女官たちに囲まれた。
 莉彩は、ただ茫然としているしかない。一体、これから何が起ころうとしているのか皆目見当もつかない状態だった。
 莉彩をぐるりと輪になって囲む女官たちから少し離れ、年配の女官が立っている。
「あの、これは」
 莉彩が物問いたげな視線を向けると、ベテラン女官が紅を塗った厚い唇を歪めた。
「そなたは、女官の臨莉彩か?」
「はい」
 莉彩が頷くと、中年の女官は鼻を鳴らした。
 内心、ムッとする。幾らベテランだか何だか知らないが、いきなり現れて、この馬鹿にした態度はあまりにも失礼ではないか。
「私は金大妃さま(キムテービマーマ)にお仕えする孔(コン)尚宮だ。大妃さまがそなたをお呼びゆえ、至急参るように」
 孔尚宮が顎をしゃくると、莉彩を取り囲む若い女官たちが近寄ってくる。両脇から腕をがっちりと掴まれ、莉彩は悲鳴を上げた。
「何をするの!」
「連れておゆき」
 孔尚宮のひと声を合図とするかのように、莉彩は女官に拘束され、そのまま引きずるようにして大妃殿に連行された。
「止めて、放して、放してよっ」
 莉彩は渾身の力で暴れたが、両側から押さえつけられ、なすすべもない。二人ともに、か弱い娘の力とは思えないほどの腕力だ。
 とうとう大妃殿に着き、大妃の前に引き出されることになってしまった。

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