
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第3章 接近~近づいてゆく心~
三十歳の王が手慣れた様子で押し倒そうとした途端、パニック状態になったとしても、誰がそれを責められたただろう。
王はそんな彼女の気持ちを読み取ったようだ。
「済まぬ(ミヤナオ)」
切なく囁く声が、あたかも散りゆく花びらのように静かに空中に漂うのを聞きながら、莉彩は王に背を向けていた。
背後で扉が少し軋みながら閉まった。
莉彩はその場に突っ伏して、声を殺して泣いた。
自分でも、何が哀しくて泣いたのか判らなかった。王を誰よりも好きなのに、拒んでしまったことなのか、それとも、信頼していた男が欲情を露わにして突如として獣のように襲いかかってきたことだったのか―。
翌朝、一晩中泣き続けた莉彩の両眼は真っ赤に腫れていた。
その翌朝、莉彩は井戸端で洗濯をしていた。現代の日本にいた頃も母の代わりに休日は時々、洗濯をしたことがあったけれど、この時代には当然ながら、全自動洗濯機のようなものがあるはずもない。
一四〇〇年代において、洗濯は一枚、一枚、棍棒のようなもので叩いて汚れを落としてゆくという実に根気も時間も必要とする仕事なのだ。長時間しゃがみ込んでいると、同じ姿勢を続けることになり、腰が痛くなってくる。それでも、集中して続けてゆくと、確かに汚れが落ちてゆくのは実に気持ちが良い。
かれこれ一刻余りに渡って洗濯を続けていた莉彩は、小さな吐息をつく。立ち上がると、腰や脚が軋み、悲鳴を上げた。握り拳でトントンと腰を叩きながら、これではまるで八十を過ぎたお婆さんのようだと自分で苦笑いを浮かべた。
「それにしても、洗濯機があるのが当たり前の時代に暮らしてた頃には、たいしてありがたいとも思わなかったけれど、やはり持つべきものは文明の利器なのねぇ」
独りごちながら、ついでに凝ってしまった肩も叩いてやる。
この時代の人々に洗濯機を見せてあげる機会があれば、さぞかし愕くに違いない。眼を回して、卒倒するだろう。
―もし現代に戻って、再びここに来ることがあったときには、洗濯機を持ってきたいな。
莉彩は考えて、またほろ苦く笑った。
王はそんな彼女の気持ちを読み取ったようだ。
「済まぬ(ミヤナオ)」
切なく囁く声が、あたかも散りゆく花びらのように静かに空中に漂うのを聞きながら、莉彩は王に背を向けていた。
背後で扉が少し軋みながら閉まった。
莉彩はその場に突っ伏して、声を殺して泣いた。
自分でも、何が哀しくて泣いたのか判らなかった。王を誰よりも好きなのに、拒んでしまったことなのか、それとも、信頼していた男が欲情を露わにして突如として獣のように襲いかかってきたことだったのか―。
翌朝、一晩中泣き続けた莉彩の両眼は真っ赤に腫れていた。
その翌朝、莉彩は井戸端で洗濯をしていた。現代の日本にいた頃も母の代わりに休日は時々、洗濯をしたことがあったけれど、この時代には当然ながら、全自動洗濯機のようなものがあるはずもない。
一四〇〇年代において、洗濯は一枚、一枚、棍棒のようなもので叩いて汚れを落としてゆくという実に根気も時間も必要とする仕事なのだ。長時間しゃがみ込んでいると、同じ姿勢を続けることになり、腰が痛くなってくる。それでも、集中して続けてゆくと、確かに汚れが落ちてゆくのは実に気持ちが良い。
かれこれ一刻余りに渡って洗濯を続けていた莉彩は、小さな吐息をつく。立ち上がると、腰や脚が軋み、悲鳴を上げた。握り拳でトントンと腰を叩きながら、これではまるで八十を過ぎたお婆さんのようだと自分で苦笑いを浮かべた。
「それにしても、洗濯機があるのが当たり前の時代に暮らしてた頃には、たいしてありがたいとも思わなかったけれど、やはり持つべきものは文明の利器なのねぇ」
独りごちながら、ついでに凝ってしまった肩も叩いてやる。
この時代の人々に洗濯機を見せてあげる機会があれば、さぞかし愕くに違いない。眼を回して、卒倒するだろう。
―もし現代に戻って、再びここに来ることがあったときには、洗濯機を持ってきたいな。
莉彩は考えて、またほろ苦く笑った。
