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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第11章 Half MooN

「あなたさまは国王殿下におわします。私などのような者とはお立場が違うのです」
「立場が違う? そのようなことが何だ、最も大切なものを選ぶためには、何かを棄てねばならぬものだ。同時に二つを選び取ることはできない。―そなたを永遠に失うくらいなら、私はすべてを棄てる。王位、玉座、この国をも棄てる。そなたと共に田畑を耕し、名もなき民の一人となって、ここで生きよう」
 そういえば、と、莉彩は臨淑妍の言葉を思い出していた。
 あれは確か莉彩に孫大監の養女となるよう勧めるために淑妍が入宮したときのことだ。自分の進むべき道について懊悩する莉彩に淑妍が言った。
―二つの中(うち)のどちらか一つだけを選ばねばならないとしたら、所詮は二つとも選ぶことはできないのですからね。両方を得ようとすれば、どちらも手に入らずに終わってしまうものです。
「でも、私などのためにそのような怖ろしいことが―」
 莉彩が泣きながら首を振ると、徳宗は莉彩を力一杯抱きしめた。
「そなたのためではない。莉彩、私自身のためだ。私自身が強く望むからこそ、すべてを棄て、そなたと生きる道を選ぶのだ。そのことに悔いはない」
「殿下」
 莉彩は徳宗の胸に頬を押し当て、泣いた。
 自分は何という身の程知らずな、大それたことを愛する男にさせてしまったのか。
 聖君とまで呼ばれた偉大な国王をその玉座から引きずり下ろし、名もない農夫として一生を送らせるなど―。そのような大それた所業はたとえ国王その人が望んだとて、天も御仏も許しはすまい。
 莉彩は幸せに浸るよりも、むしろいずれ下されるであろう仏罰を怖れた。
 だが、ここまで言う男に最早、何を言うこともできない。一人の女としては、これほど幸せなことはない。愛する男が自分のために何もかもを―一国さえも投げ打つと言っているのだ。

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