
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第11章 Half MooN
もしや―。
その可憐な顔が強ばった。
途端に心臓が音を立てて鳴り始める。
客がおもむろに帽子を取った。
「あ―」
莉彩が唇を震わせる。
国王―徳宗がひっそりと陽光の中に立っていた。戸惑いと混乱、恐怖が莉彩の眼の中を慌ただしく通り過ぎてゆく。その中に歓びがなかったことが、徳宗をどれだけ落胆させたかを莉彩は知らなかった。
「何故、私に子どものことを言わなかった!?」
王は怒りに端整な容貌を朱に染めている。
「私は、そなたに無情にも棄てられたと思ったのだぞ。聖泰が私の子であると何ゆえ、私に話さなかったのだ!」
王が怒りを爆発させるのを見て、莉彩は布団の上で縮こまった。
彼は今や身を乗り出すようにして、怖れと怒りに身を震わせている。そして、〝愚か者!〟と叫ぶなり、震える手で莉彩の頬を包み込んだ。
王の眼に涙が溢れて光っている。
「いつかも申したではないか、そなたの前では私は一人のただの男でいたいのだと。私はそなたを愛し、必要としている。そなた以外の女など要らぬ。そなたは私であり、私はそなたなのだ。そのそなたを、私が求めぬはずがないではないか。そなたが黙って王宮を出ていったと知ってから、私は地獄の苦しみを味わう羽目になった。そなたを恋い慕うあまり、醜い嫉妬に狂い、酷い仕打ちをした私をそなたはもう嫌いになってしまったか? あんな卑劣な男は金輪際、許せぬか?」
莉彩の眼に涙が溢れ、頬をつたう。
二年前の日々が甦る。夜毎、徳宗に酷い抱き方をされ、絶望の底に突き落とされた。でも、今、徳宗の顔を見た瞬間、やはり自分はこの男をずっと心から求めていたのだと判った。
あれだけ夜毎、身体を蹂躙されても、あのときでさえ憎み切れなかった男なのだ。どうして、今更、嫌いになどなれるだろう?
「私がお側にいては、国王殿下のお進みになる道の妨げとなります。ゆえに、私は自ら身を退く覚悟を致しました」
二年前、莉彩が苦慮したのは、徳宗への己れの気持ちだけではなかった。あの頃、四年もゆく方知れずとなっていた間の莉彩の動向を、大臣たちがしきりに取り沙汰していた。
その可憐な顔が強ばった。
途端に心臓が音を立てて鳴り始める。
客がおもむろに帽子を取った。
「あ―」
莉彩が唇を震わせる。
国王―徳宗がひっそりと陽光の中に立っていた。戸惑いと混乱、恐怖が莉彩の眼の中を慌ただしく通り過ぎてゆく。その中に歓びがなかったことが、徳宗をどれだけ落胆させたかを莉彩は知らなかった。
「何故、私に子どものことを言わなかった!?」
王は怒りに端整な容貌を朱に染めている。
「私は、そなたに無情にも棄てられたと思ったのだぞ。聖泰が私の子であると何ゆえ、私に話さなかったのだ!」
王が怒りを爆発させるのを見て、莉彩は布団の上で縮こまった。
彼は今や身を乗り出すようにして、怖れと怒りに身を震わせている。そして、〝愚か者!〟と叫ぶなり、震える手で莉彩の頬を包み込んだ。
王の眼に涙が溢れて光っている。
「いつかも申したではないか、そなたの前では私は一人のただの男でいたいのだと。私はそなたを愛し、必要としている。そなた以外の女など要らぬ。そなたは私であり、私はそなたなのだ。そのそなたを、私が求めぬはずがないではないか。そなたが黙って王宮を出ていったと知ってから、私は地獄の苦しみを味わう羽目になった。そなたを恋い慕うあまり、醜い嫉妬に狂い、酷い仕打ちをした私をそなたはもう嫌いになってしまったか? あんな卑劣な男は金輪際、許せぬか?」
莉彩の眼に涙が溢れ、頬をつたう。
二年前の日々が甦る。夜毎、徳宗に酷い抱き方をされ、絶望の底に突き落とされた。でも、今、徳宗の顔を見た瞬間、やはり自分はこの男をずっと心から求めていたのだと判った。
あれだけ夜毎、身体を蹂躙されても、あのときでさえ憎み切れなかった男なのだ。どうして、今更、嫌いになどなれるだろう?
「私がお側にいては、国王殿下のお進みになる道の妨げとなります。ゆえに、私は自ら身を退く覚悟を致しました」
二年前、莉彩が苦慮したのは、徳宗への己れの気持ちだけではなかった。あの頃、四年もゆく方知れずとなっていた間の莉彩の動向を、大臣たちがしきりに取り沙汰していた。
