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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第7章 対立

 莉彩は眼前の光景を到底見ていられなかった。愛する男が―この国の王が義母の面前に跪いて許しを乞うている。莉彩を鞭打つくらいなら、代わりに自分を鞭打てと懇願している。
―私は、これほどまでに殿下を苦しめている。
 そう思うと、居たたまれなかった。
「お待ち下さいませ」
 莉彩は泣きながら叫んだ。
 叶うことなら、今すぐに徳宗の側に走り寄りたかったけれど、いまだ台に縛りつけられたままの莉彩は身じろぎもできない。
「私のために、お二人が仲違いなさるのはお止め下さいませ。大妃さま、私はどうなろうと覚悟はできております。ですから、国王殿下とあい争われるのはお止め下さい」
 大妃が軽く舌打ちを聞かせた。
「互いに庇い合うとは、真に美しいことだ。だが、そのような愁嘆場を見せて、私を欺こうと考えても、そうはゆかぬ。孫淑容、今日のところは国王殿下の体面もあるゆえ、大目に見よう。したが、次はないと思え。今度、殿下の恩寵を傘に着て傍若無人のふるまいを致せば、そのときこそ力の限り鞭打つぞ」
 大妃が言い捨て、背を向ける。そのまま大妃殿に入ってゆこうとするその背に、徳宗の声音が追い縋った。
「大妃さまは、先刻、私が国王ゆえ、鞭打つことはできないと仰せになられました。さりながら、大妃さま、私は国王である前に一人の人間であり、妻を愛する良人、更には、あなたの息子です。私は好んであなたと争っているわけではありません。それだけは憶えておいでになって下さい」
「―おっしゃりたいことは、それだけですか」
 大妃はたったひと言そう言うと、一度も徳宗を振り返ることなく建物の中に消えた。
 その背中は、小さな年老いた身体には背負いきれぬほどの重い孤独を抱えているように見えた。
 大妃がいなくなった後、崔尚宮や女官たちが莉彩に駆け寄り、莉彩は漸く自由の身になった。
「淑容(スギヨン)さま(マーマ)、どこもお怪我はございませんか?」
 崔尚宮が蒼白な顔でおろおろしながら訊ねてくる。
 莉彩は頷いた。
「大丈夫ゆえ、そのように心配せずとも良い」
 その側で、花芳が大泣きしていた。

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