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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第7章 対立

「申し訳ございません。私がいけないんです。あの女官たちが淑容さまをあんな酷い目に遭わせておきながら、ちっとも反省してないのが悔しくてたまらなくて。つい、言ってはいけないことを口走ってしまったんです」
 わあっと泣き伏す花芳の肩を莉彩は優しく叩いた。
「良いのよ。花芳は私のことを思い、ついそんなことを言ってしまったのだから。私の代わりに私が言えなかったことを言ってくれた―、私はそう思っています。だから、もう泣かないで」
「莉彩」
 気が付けば、徳宗が傍らに佇んでいた。
「本当に大丈夫か?」
 気遣わしげに問われ、莉彩は微笑んだ。
「大事ございませぬ。私は健康だけが取り柄でございますから、これしきのことでは何ともなりませぬ」
 だが、王の顔色は晴れなかった。
「さりながら、この頃は薄い粥ですら、ろくに食せぬほど弱っているというではないか。崔尚宮が案じておるぞ。何故、尚薬に診せぬのだ?」
「―」
 莉彩がうつむき、押し黙った。
 ややあって、消え入るような声で言った。
「夏の疲れが出ただけだと存じますので。わざわざお忙しい尚薬どののお手を煩わせるまでもないかと」
「莉彩」
 徳宗が莉彩の肩に両手を置いた。人さし指で顎を持ち上げ、莉彩を上向かせる。
 が、莉彩は最後まで王と視線を合わせようとはしない。
「何ゆえ、眼を逸らす? どうして、予を見ようとせぬのだ」
 それでも頑なに黙り込む莉彩を見て、徳宗は溜息をついた。
「そなたの意思が強いのはよく存じておる。だが、これだけは約束してくれ。これ以上、今のような状態が続くようなら、そなたがいかに抗おうと、予は尚薬にそなたの診察を命ずるぞ、良いな?」
 念を押すように言われ、莉彩はまた涙が零れそうになった。王が莉彩の身を心から心配しているのが判るだけに、尚薬の診察を拒み続けるのが辛かったのだ。
「崔尚宮」
 王に呼ばれた崔尚宮が畏まる。
「はい(イエ)」
 王は莉彩には聞こえぬように崔尚宮の耳許で囁くように言った。
「孫淑容の体調については十分気をつけるように。何か変わったことがあれば、すぐ知らせよ」
「肝(ミヨ)に銘じまし(ンシマゲツソ)てございます(ニダ)」
 王は莉彩をもう一度やるせなさそうな表情で見た。

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