
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
父である先王は、母を喪ったばかりの徳宗にそう言い聞かせた。
しかし、挨拶に来た幼い王子に対して中殿(大妃)は終始、素っ気ない態度で通した。
あまつさえ、王子にこう言ったのだ。
―立場が立場ゆえ、これからは私を〝母〟と呼ぶことを許しはするが、私は、そなたをけして我が子とは思わぬ。そなたもさよう心得ておくが良い。
わずか六歳の王子に、大妃は〝そなたを我が子とは思わぬ〟と言い切ったのだ。
その一件は、徳宗の幼い心に深い傷を残し、拭い去ることのできない翳りを落とした。
大妃の許を辞して自分の部屋に戻ってから、徳宗は乳母の胸に身を預けて烈しく泣きじゃくった。
―お可哀想に。
乳母もまた徳宗を抱きしめて泣いた。―その乳母こそが臨淑妍であった。
「母を亡くしたばかりの私に、大妃さまは私をけして我が子とは思わぬと仰せになられました。それでも、私は自分さえ誠意をもってお仕えすれば、いつかは必ず真心が通じると信じてきたのです。たとえ血の繋がりはなくとも、信頼という名の血にも勝る絆ができるはずだと。それでも、今なお大妃さまが私をそれほどまでにお憎しみになっているのなら、それはやはり、私の不徳の致すところでしょう」
そこで王はひとたび口をつぐみ、小さな吐息をついた。
「ですが、大妃さま。罪は私一人のみのものにて、私の母にしろ亡くなった伊淑儀にしろ、罪はありません。ましてや、この孫淑容はつい最近、入宮したばかりで過去の私たちの確執とは何の拘わりもないのです。どうか、その者たちへのお恨みはお忘れ下さいますよう」
次の瞬間、その場に居合わせた一同は、あっと息を呑んだ。
徳宗が大妃の前まで進み、跪いたからだ。
「それでも、どうしても母上が孫淑容に罰を与えると仰せなら、代わりにこの私が罰を受けます。どうぞ私をお気の済むだけ鞭で打って下さいませ」
徳宗の頬は濡れていた。
「愚かなことを仰せになられますな。あなたはこの国の国王殿下でいらせられますぞ。幾ら私が大妃であろうと、最早、あなたを鞭打つことなどできようはずもない」
大妃が眉を顰めた。
しかし、挨拶に来た幼い王子に対して中殿(大妃)は終始、素っ気ない態度で通した。
あまつさえ、王子にこう言ったのだ。
―立場が立場ゆえ、これからは私を〝母〟と呼ぶことを許しはするが、私は、そなたをけして我が子とは思わぬ。そなたもさよう心得ておくが良い。
わずか六歳の王子に、大妃は〝そなたを我が子とは思わぬ〟と言い切ったのだ。
その一件は、徳宗の幼い心に深い傷を残し、拭い去ることのできない翳りを落とした。
大妃の許を辞して自分の部屋に戻ってから、徳宗は乳母の胸に身を預けて烈しく泣きじゃくった。
―お可哀想に。
乳母もまた徳宗を抱きしめて泣いた。―その乳母こそが臨淑妍であった。
「母を亡くしたばかりの私に、大妃さまは私をけして我が子とは思わぬと仰せになられました。それでも、私は自分さえ誠意をもってお仕えすれば、いつかは必ず真心が通じると信じてきたのです。たとえ血の繋がりはなくとも、信頼という名の血にも勝る絆ができるはずだと。それでも、今なお大妃さまが私をそれほどまでにお憎しみになっているのなら、それはやはり、私の不徳の致すところでしょう」
そこで王はひとたび口をつぐみ、小さな吐息をついた。
「ですが、大妃さま。罪は私一人のみのものにて、私の母にしろ亡くなった伊淑儀にしろ、罪はありません。ましてや、この孫淑容はつい最近、入宮したばかりで過去の私たちの確執とは何の拘わりもないのです。どうか、その者たちへのお恨みはお忘れ下さいますよう」
次の瞬間、その場に居合わせた一同は、あっと息を呑んだ。
徳宗が大妃の前まで進み、跪いたからだ。
「それでも、どうしても母上が孫淑容に罰を与えると仰せなら、代わりにこの私が罰を受けます。どうぞ私をお気の済むだけ鞭で打って下さいませ」
徳宗の頬は濡れていた。
「愚かなことを仰せになられますな。あなたはこの国の国王殿下でいらせられますぞ。幾ら私が大妃であろうと、最早、あなたを鞭打つことなどできようはずもない」
大妃が眉を顰めた。
