
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
「孫淑容を直ちに呼ぶのだ。たとえ殿下のご寵愛厚い側室であろうが、こたびの仕儀は到底許しがたい所業である」
大妃からの呼び出しが来て初めて、崔尚宮は己れの取った行動が尚宮としてふさわしくなかったことを知った。しかし、時既に遅かった。
大妃からの呼び出しと聞いて、莉彩は流石に顔色を曇らせた。大妃には十年前にも謂われのない罪で鞭打たれ、酷い目に遭わされたのだ。そのときのことを思い出せば、莉彩は暗澹とした気分になった。
しかし、仮にも国王の嫡母という立場にある大妃に呼ばれて、顔を出さないわけにはゆかない。側室ではあるが、莉彩は徳宗の妻であり、大妃は立場上、姑に当たる。嫁としての礼を尽くさねばならなかった。
大妃殿の前まで来た莉彩がおとないを告げても、大妃はいっかな姿を現さなかった。ゆうに四半刻は庭で立ったまま待たされた挙げ句、漸く大妃が出てきたかと思ったら、いきなり莉彩は女官たちに両脇から押さえつけられ、俄に用意された長方形の台にうつ伏せに寝かされた。
その状態で手脚を縄で台にしっかりと拘束されるという何とも屈辱的な格好をさせられたのである。
付き従ってきた崔尚宮は蒼白になって狼狽えた。
それでなくとも、莉彩はここ半月ほど―八月に入った頃から身体の不調を訴えていた。
食べては吐きを繰り返し、今では松の実粥すら喉を通らぬほど弱っている。尚薬に診て貰うように勧めても、当の莉彩自身が頑なに診察を拒むので、崔尚宮もなすすべがない。
そのため、徳宗からのお召しがあっても、ここのところはずっと辞退しているという憂慮すべき状態が続いていた。
「女官の躾がなっていないのは、その主人(あるじ)たる孫淑容の罪だ」
大妃は紅い唇を歪め、ヒステリックに叫ぶ。
既に七十近い年齢に達しているはずなのに、相も変わらず化粧が見苦しいほど濃い。
「孫淑容、とうとう化けの皮が剥がれたか。主上のご寵愛を賜り、あまつさえ淑容の地位まで手に入れて我が世の春―と得意満面であったようだな。驕るあまり、私に仕える女官の失態を畏れ多くも国王殿下に進言し、殿下より女官を仕置きして頂くようお願いするとは、何たる不届きだ」
莉彩は台に括り付けられたまま眼を瞠った。
大妃からの呼び出しが来て初めて、崔尚宮は己れの取った行動が尚宮としてふさわしくなかったことを知った。しかし、時既に遅かった。
大妃からの呼び出しと聞いて、莉彩は流石に顔色を曇らせた。大妃には十年前にも謂われのない罪で鞭打たれ、酷い目に遭わされたのだ。そのときのことを思い出せば、莉彩は暗澹とした気分になった。
しかし、仮にも国王の嫡母という立場にある大妃に呼ばれて、顔を出さないわけにはゆかない。側室ではあるが、莉彩は徳宗の妻であり、大妃は立場上、姑に当たる。嫁としての礼を尽くさねばならなかった。
大妃殿の前まで来た莉彩がおとないを告げても、大妃はいっかな姿を現さなかった。ゆうに四半刻は庭で立ったまま待たされた挙げ句、漸く大妃が出てきたかと思ったら、いきなり莉彩は女官たちに両脇から押さえつけられ、俄に用意された長方形の台にうつ伏せに寝かされた。
その状態で手脚を縄で台にしっかりと拘束されるという何とも屈辱的な格好をさせられたのである。
付き従ってきた崔尚宮は蒼白になって狼狽えた。
それでなくとも、莉彩はここ半月ほど―八月に入った頃から身体の不調を訴えていた。
食べては吐きを繰り返し、今では松の実粥すら喉を通らぬほど弱っている。尚薬に診て貰うように勧めても、当の莉彩自身が頑なに診察を拒むので、崔尚宮もなすすべがない。
そのため、徳宗からのお召しがあっても、ここのところはずっと辞退しているという憂慮すべき状態が続いていた。
「女官の躾がなっていないのは、その主人(あるじ)たる孫淑容の罪だ」
大妃は紅い唇を歪め、ヒステリックに叫ぶ。
既に七十近い年齢に達しているはずなのに、相も変わらず化粧が見苦しいほど濃い。
「孫淑容、とうとう化けの皮が剥がれたか。主上のご寵愛を賜り、あまつさえ淑容の地位まで手に入れて我が世の春―と得意満面であったようだな。驕るあまり、私に仕える女官の失態を畏れ多くも国王殿下に進言し、殿下より女官を仕置きして頂くようお願いするとは、何たる不届きだ」
莉彩は台に括り付けられたまま眼を瞠った。
