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約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第7章 対立

「あらまぁ、随分と長い厠だことね。そんなに長い間、厠に籠もって、何をへり出したのやら」
「まっ、お仕えするお方がお方なら、仕える女官も女官ね。生まれ育ちが知れる下品な物言いだこと」
「何ですって? 私たちのことは何と言っても構わないけれど、淑容さまのことを悪く言うのは許せないわ。良いわ、私が淑容さまに申し上げて、淑容さまから国王殿下にお話して貰うことにする。きっと殿下からきついお叱りがあるわよ」
 幾らカッとなったとはいえ、これは、けして口にしてはならない言葉であった。花芳は、とんでもない失態を犯したのだ。
 しかも、運の悪いことに、相手は大妃殿の女官であった。二人組の中の一人は花芳の知らない顔だったが、もう一人は、例の莉彩を池に投げ込んだ片割れだった。背の高いひょろ長い、いけ好かない女だ。
 花芳がその時、いつも以上にムキになったのも、大切な主人である莉彩を酷い目に遭わせた張本人だった―というのもあった。
 結局、口論で始まった喧嘩は、最後には殴り合い、掴み合いの大喧嘩になった。大人しい春陽は直接加わることはなかったが、春陽が泣きながら宮に知らせに戻ったことで、事が莉彩にまで伝わることになった。
 何しろ、相手は二人がかりで、花芳は一人である。帰ってきた花芳はチマチョゴリは破れ、髪は引っ張られて乱れ、それはもう無惨な有様だった。眼の回りには、まるでパンダのように蒼アザができている。
 そのあまりの惨状に、流石に事なかれ主義の崔尚宮も柳眉を逆立てた。崔尚宮は花芳を連れて大妃殿に赴き、花芳を殴りつけたという女官二人の頬を打った。
 そうでもせねば、あまりの仕打ちに溜飲が下がらなかったのだ。だが、常の崔尚宮らしからぬこのふるまいが、更に莉彩を窮地に追い込むことになるとは、崔尚宮はこの時、想像だにしなかった。
 崔尚宮に殴られた女官たちが今度は孔尚宮に泣きつく。
「たかが側室に仕える尚宮ごときが上宮の女官の頬を打つとは」
 孔尚宮は烈火のごとく怒り、早速、大妃に注進した。大妃はその当事者である二人の娘を呼び、事情を事細かに聞いた。
 娘たちを下がらせた後、大妃は甲走った声で孔尚宮に命じたのである。

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