
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
莉彩の起居する宮は、女官たちも心を一つにして女主人である莉彩に仕えている。それは他ならぬ莉彩自身が大らかな心で彼女たちに接しているからでもあった。けじめはつけるけれど、無茶な要求はけしてしないし、時にはお八ツのお菓子の大盤振る舞いがあり、それが何より若い女官たちを歓ばせた。
何と言っても、莉彩は若い女の子が甘い物が大好きだと知っているし、いまだに彼女自身がお菓子には眼がないのだ。莉彩のお菓子好きは徳宗もよく知っていて、時にはそのことで徳宗からからかわれる有様だ。
莉彩は生来、人を惹きつける力を持っていた。現代風にいえば、カリスマ性とでもいうのだろうか。正式な妃となった今は、流石に莉彩に女官時代のように用事を押しつける者はいないが、莉彩は見苦しくない程度には自分のことは自分でするように心がけていた。
高貴な女人というものは、どんな些細な事でも他人の手を借りてやって貰うのが当たり前だというのはこの時代に来て初めて知ったことだ。気軽に何でも自分でやってしまう莉彩はいささか風変わりなお妃だと思われいるらしいが、国王の唯一の妃だということで居丈高になるわけでもなく、下っ端の女官見習いにまで優しく気遣いを示す。
そんな姿は、身分に拘らない徳宗と似ている―、まさにお似合いのご夫婦だと言った女官もいた。
そして。暦は既に八月に入っていたある日、その事件が起こったのである。井戸端で洗濯をする順番を待っていた若い女官たちの間でちょっとした諍いがあった。
いよいよ自分たちの順番が来た花芳と春陽は山のような洗濯物を抱え、洗濯を始めた。そこに突如として横槍が入ったのだ。
「あら、私たちは、お前たちが来る一刻以上も前から順番を待っていたのよ? それなのに、先に洗濯を始めるなんて許せないわね、この泥棒猫!」
「泥棒猫ですって? 何て失礼な物言いでしょう。それに、あなたたちにお前呼ばわりされる憶えは私たちにはありませんから」
勝ち気な花芳が売られた喧嘩を買ってしまった。
「大体、順番を待っていたって言うけど、あなたたち、どこにもいなかったじゃない」
花芳の問いは当然だった。と、あろうことに、相手は平然と言ったのだ。
「厠に行っていたのよ」
何と言っても、莉彩は若い女の子が甘い物が大好きだと知っているし、いまだに彼女自身がお菓子には眼がないのだ。莉彩のお菓子好きは徳宗もよく知っていて、時にはそのことで徳宗からからかわれる有様だ。
莉彩は生来、人を惹きつける力を持っていた。現代風にいえば、カリスマ性とでもいうのだろうか。正式な妃となった今は、流石に莉彩に女官時代のように用事を押しつける者はいないが、莉彩は見苦しくない程度には自分のことは自分でするように心がけていた。
高貴な女人というものは、どんな些細な事でも他人の手を借りてやって貰うのが当たり前だというのはこの時代に来て初めて知ったことだ。気軽に何でも自分でやってしまう莉彩はいささか風変わりなお妃だと思われいるらしいが、国王の唯一の妃だということで居丈高になるわけでもなく、下っ端の女官見習いにまで優しく気遣いを示す。
そんな姿は、身分に拘らない徳宗と似ている―、まさにお似合いのご夫婦だと言った女官もいた。
そして。暦は既に八月に入っていたある日、その事件が起こったのである。井戸端で洗濯をする順番を待っていた若い女官たちの間でちょっとした諍いがあった。
いよいよ自分たちの順番が来た花芳と春陽は山のような洗濯物を抱え、洗濯を始めた。そこに突如として横槍が入ったのだ。
「あら、私たちは、お前たちが来る一刻以上も前から順番を待っていたのよ? それなのに、先に洗濯を始めるなんて許せないわね、この泥棒猫!」
「泥棒猫ですって? 何て失礼な物言いでしょう。それに、あなたたちにお前呼ばわりされる憶えは私たちにはありませんから」
勝ち気な花芳が売られた喧嘩を買ってしまった。
「大体、順番を待っていたって言うけど、あなたたち、どこにもいなかったじゃない」
花芳の問いは当然だった。と、あろうことに、相手は平然と言ったのだ。
「厠に行っていたのよ」
