
約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever
第7章 対立
今を時めく寵姫の宮は常に笑い声と活気に溢れ、花芳だけでなく概ね、どの女官も明るく負けん気は強い。その若い女官たちを束ねるのが崔尚宮であったが、こちらは莉彩が十年前に初めて入宮してきたときからの後見人、しかもおっとりとした争いを好まぬ人柄のため、かえって、かしましい女官たちとは上手くいっている。
金春陽が莉彩の宮に引き取られたのは、莉彩当人がそう願ったからである。後にすっかり健康を回復してから、莉彩は、春陽が花芳に莉彩の一大事を知らせたと聞いた。もし、春陽があのまま見ぬふりをしていたら、怖ろしいことに莉彩は凍え死んでいたに相違なかった。
あの日は五月初旬とはいえ、池の水はまだかなり冷たかった。水をあまり飲んでいなかったのが幸いして、莉彩は危ういところを九死に一生を得たのだ。それでも、あの状態でひと晩放置されていたら、間違いなく死んでいた。
あの時、春陽は他の二人の女官に脅されて付き合わされただけで、率先して謀を巡らせたようには見えなかった。実際、春陽の人柄を知るにつけ、彼女がそんなことのできる娘ではないと莉彩は知ることになった。
あの事件後も春陽はしばらくは大妃殿にいたが、莉彩のことを花芳に知らせたのが露見、大妃殿には居辛くなった。莉彩が春陽を引き取ったのは、それが最大の理由であった。
元々、大妃殿は春陽にとって居心地の良い場所ではなかったため、歓んで移ってきたのだ。莉彩付きの女官になってからというもの、春陽は〝お優しい淑容さま〟の信奉者の一人となった。
「大きな声じゃ言えないけれど、以前お仕えしていた大妃さまと淑容さまとじゃ、鬼と菩薩さまくらいの差があるわ。大妃さまは、ちょっとしたことでもすぐに癇性に騒ぎ立てて、あたしたち女官はいつも怒られるんじゃないかって、びくびくしてなきゃいけなかったの。大妃さまがその調子だから、お付きの孔尚宮さまも神経尖らせてピリピリしてるしね。あたしは、こっちに来させて貰って良かったわぁ」
これは、春陽が莉彩に仕えるようになって洩らした言葉である。大妃殿での生活が相当のプレッシャーになっていたのか、愕くべきことに、莉彩の宮に来てからは春陽の吃音は嘘のように直った。
金春陽が莉彩の宮に引き取られたのは、莉彩当人がそう願ったからである。後にすっかり健康を回復してから、莉彩は、春陽が花芳に莉彩の一大事を知らせたと聞いた。もし、春陽があのまま見ぬふりをしていたら、怖ろしいことに莉彩は凍え死んでいたに相違なかった。
あの日は五月初旬とはいえ、池の水はまだかなり冷たかった。水をあまり飲んでいなかったのが幸いして、莉彩は危ういところを九死に一生を得たのだ。それでも、あの状態でひと晩放置されていたら、間違いなく死んでいた。
あの時、春陽は他の二人の女官に脅されて付き合わされただけで、率先して謀を巡らせたようには見えなかった。実際、春陽の人柄を知るにつけ、彼女がそんなことのできる娘ではないと莉彩は知ることになった。
あの事件後も春陽はしばらくは大妃殿にいたが、莉彩のことを花芳に知らせたのが露見、大妃殿には居辛くなった。莉彩が春陽を引き取ったのは、それが最大の理由であった。
元々、大妃殿は春陽にとって居心地の良い場所ではなかったため、歓んで移ってきたのだ。莉彩付きの女官になってからというもの、春陽は〝お優しい淑容さま〟の信奉者の一人となった。
「大きな声じゃ言えないけれど、以前お仕えしていた大妃さまと淑容さまとじゃ、鬼と菩薩さまくらいの差があるわ。大妃さまは、ちょっとしたことでもすぐに癇性に騒ぎ立てて、あたしたち女官はいつも怒られるんじゃないかって、びくびくしてなきゃいけなかったの。大妃さまがその調子だから、お付きの孔尚宮さまも神経尖らせてピリピリしてるしね。あたしは、こっちに来させて貰って良かったわぁ」
これは、春陽が莉彩に仕えるようになって洩らした言葉である。大妃殿での生活が相当のプレッシャーになっていたのか、愕くべきことに、莉彩の宮に来てからは春陽の吃音は嘘のように直った。
