テキストサイズ

約束~リラの花の咲く頃に~ⅢLove is forever

第7章 対立

 それは、母として子の幸せと安寧を願う気持ちから考えたことだ。
 もし、子どもを授かるその日まで、自分が徳宗の傍にいられるとすればの話ではあるけれど。
「殿下は代わりのきかない大切な御身です。民にとって国を統べる殿下は父たる存在、父親が健やかでなければ、子である民もまた憂えましょう。どうか、朝鮮の国の民のためにも、お身体を労って下さいませ」
 莉彩の心からの言葉に、王は力ない微笑みを浮かべて、それでも幾度も頷いた。

 その事件は、起こるべくして起こった。
 というのも、莉彩が三月(みつき)前に池に落ちて生命を失いかける事件が起こり、莉彩こと孫淑容に仕える女官たちは皆、大妃殿の女官を快く思っていなかったからである。
 正式な側室として位階を与えられるに当たり、後宮のしきたりに則り、莉彩は一つ殿舎を与えられた。それぞれの妃の暮らす宮は独立しており、淑容となった莉彩に仕える女官が新たに選ばれたのだ。
 莉彩の上司でもあり後見人であった崔尚宮が新しい淑容付きの尚宮となり、お付き女官の中にはむろん守花芳も入っていた。この時、大妃殿から新たに孫淑容の宮に移ってきたのは、あの太った女官―莉彩の危急を花芳に知らせた金(キム)春陽(チユンニヤン)であった。春陽は動きは遅いが、実直でよく働いた。崔尚宮が眼を回すほどよく食べたが、その名のとおり、春の陽溜まりのような陽気で後を引かない性格は誰からも好まれた。
 大妃殿では、身体の大きく動作の緩慢な春陽を陰で〝うすのろ〟と呼び、皆が軽んじていたらしい。だが、莉彩の許に来てからは、そのようなこともなく、かえって春陽の朗らかな気性は人気の元になった。
「お仕えするご主人さまがああ陰険じゃア、女官たちも皆、自然と似てくるわよ」
 などと、花芳は実に怖ろしいというか不敬なことを平気で口走っている。
 その度に、崔尚宮に窘められるが、ろくに反省もしない。花芳がそこまで強気でいられるのも、実は国王殿下ただ一人の愛妾にして想い人の孫淑容の側近く仕える女官だという自負があったからだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ