テキストサイズ

マッチ売りの少女と死神さん

第2章 12月31日…死神さんに穢されました


青年はテーブルに肘をつくようにして座り直し、自分も皿に手を伸ばした。
ちら、とサラの方を見ると目が合い、サラはクリームのついた口で嬉しそうに笑った。

「おいひい、です」

「うん」

「凄く、凄くおいしい……」

「そうだねえ」

「私、こんなの初めて!」

「そうだろうねえ」

「はああ……天国の食べ物みたい」

「それは光栄だなあ」

「私、生まれてからずっと、こういう甘いものを、お腹いっぱい食べてみたかったんです!!」

「ふうん」

青年はうわの空で相槌を打っていた。
また視線がぶつかり、サラが不思議そうに彼を見てきて、青年はすぐに目を逸らした。
どこかむずがゆく、青年はイライラして落ち着かない気分だった。

(……何でかな……ケーキを消すタイミングを外したかな……)

青年はマッチを手に取り、再びそれをこすった。

(よおし、次こそ)

するとマッチの先の小さな炎の中から、今度は鶏肉の丸焼きが現れた。
火が消えていくにつれ、香ばしそうな焦げ目まではっきり見えてくる。
突如、ケーキの横に現れたご馳走を見たサラは、フォークを手から取り落としそうになった。

「これも食べていいんだよお」

「………」

そう言い、驚いて言葉も出ない少女にすすめる。

「っ……え、ええっ!?」

「実は僕、魔法が使えるんだよねえ。 マッチをこすると欲しいものが出てくる」

青年はサラの顔を伺った。
丸い目を落っこちそうな程大きくしたサラは、顔をくしゃくしゃにして綻ばせた。

「わあっ。 ほ、ほんとに!? 凄い!!」

ドクン、青年は何かで心臓を掴まれた気がした。
寒々しい室内の温度が一気に上昇したのを感じ、周りを見渡す。
直後、熱いのは自分の顔なのだと気付いた。
サラの笑顔を目にした青年は結局、またもや毒気を抜かれたように、ご馳走をその場から消すのを止めてしまった。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ