
マッチ売りの少女と死神さん
第5章 1月2日…だからってXXは無理です
自分にはこれらは使いこなせないらしい。
「どうすればいいのかしら……」
途方に暮れたサラが湯船のへりに腰をかける。
「そこの香油をつけるといいよ」
まるで神の宣託のごとくホーリーの声がまた聞こえてきた。
「香油………あ、あったわ。 きっとこの瓶ね」
辺りをめぐらすと小窓のふちに見慣れない小さな赤い瓶が置いてあった。
(いや違う、そうじゃない)
はたと、空想のはずのその声がやけにバスルームに響いたのを思い返す。
ものすごくさりげなく戸口を見ると、きっちりと閉めたはずのバスルームの戸がわずかに空いている。
「…………」
「…………」
まるで花に誘われる蝶のように。
小麦を撒いておくとついばみに来る小鳥のように。
そんな可愛らしいものではないだろうけど………サラが半信半疑で試してみた今回のコレ。
きっとそれにまんまと釣られてやってきたホーリーに違いない。
(そしてまだ隠れているのはなぜかしら……もう少し餌が必要だとでも?)
若干イラっとしたサラだったが、今の自分の恥ずかしい恰好に気が付いた。
『僕だけがいやらしくて悪いの?』
そこで、そんなさっきのホーリーの声を思い出した。
心のどこかでは分かっていたのに目を逸らしていた。
(だって、私もホーリーさんとするのは………感じてしまうもの)
この点で、もう彼を悪者にするのはよそう、とサラは思う。
意を決したサラは淫具に香油をタラタラと垂らし、湯船の中で後ろ向きに膝立ちになった。
ホーリーが自分を見ている。
お湯になびくレースが肌を撫でる。
今度はその度に触れるか触れないかの愛撫を受けているみたいだ。
(そういえば、彼がこんな風に優しく触れてくれていたからだわ)
そんなことを思い出した。
「……ほ、ホーリーさん……」
問いかけたサラに返事はなかった。
「私、多分声が…出ちゃう……ような気がします」
やはり返事はなかった。
その代わりにこくん、と唾を飲み込む喉の音が聞こえた。
