
マッチ売りの少女と死神さん
第5章 1月2日…だからってXXは無理です
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クラース氏の家には結局一時間半ほど余分に滞在した。
何人かの酔った人とすれ違った。
ニューイヤー・ホリデー夜が終われば、いつもの暗く寒い夜に戻るのだろう。
サラは今、話の内容を頭の中で整理しながら宿までの道を歩いている。
………ドイツ人のクラース氏は先の内戦時代に当時シスターだったおばあさんに救われたらしい。
それからその際、裏切った仲間への復讐心を捨てきれない氏を気にかけ、おばあさんは手紙などで熱心に彼を説得した。
その後改心して事業を起こし、彼は今に至るのだと。
そんなことを家族に対してさえ、おくびにも話さずに逝ったおばあさんに、クラース氏とサラはしばし無言で追悼をささげた。
対して。
ローラの話はさすがにその内容が内容だけあって、サラにも不可解なものだった。
彼女自体がまだ幼いのだからそれも仕方がないのだと思う。
『私には神様も悪魔もみえないわ。 お兄ちゃんは………そうね。 彼はとても弱くみえる。 だから怖くなかったのかもしれない。 彼の家はどこなの?』
家? と、サラがローラに訊いた。
『たいがい、ああいう人は精霊なら古い木だったり、物に宿ったらその物だったり。 それなりの住処があるはずなのだけど、彼はここの人じゃない気がするわ。 天使様だって私、一度しか見たことがないし。 だって彼らもお空から滅多に降りてこないでしょう?』
「ホーリーさんは家に帰らないから辛いのかしら………?」
彼の住処は冥界と聞いた。
なぜだろう、とサラは思う。
(そもそも彼は、なぜまだ私を連れて行かないの?)
鍋の熱からさえサラを守ろうとするホーリーは、自分を危険から遠ざけようとしているかのようにさえみえるのだ。
