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マッチ売りの少女と死神さん

第5章 1月2日…だからってXXは無理です


「ふうん…なぜクラース氏は、君の母方の故郷やら家族の名前やらを尋ねたんだろうね?」

サラもそこが分からなく、ただ彼女が氏の質問に答えた後で

『ああ、そうですか、そうなのですか…!!』

といちいち興奮気味に返答をしていた。

結局サラが今晩の約束を断ろうとする隙も与えられず、ものの数分で電話が切れた。

ホーリーがそれについて考え深そうに問いかけてくる。

「君の亡くなったお母さんやおばあさんは確か働いてたよねえ?」

「あ、はい。 おばあさんは昔教会で働いていて、その後しばらく故郷では、お母さんが娘の頃まで薬店を営んでいたそうです。 その後お父さんとの結婚で、おばあさんもこっちに越してきたと聞いています」

「フーン…薬店。 故郷は随分と南の方だったよねえ。 教会、ということはシスター……つまり看護婦の前身ってとこかなあ。 イギリスではナイチンゲールって女性が有名だけどね、北欧にはまだ正式な看護職ってのは浸透していない」

「へ、へえ? あ、でも! 確かにおばあさんから、戦時中の人々の看病をしていたという話を聞いたことがあります」

「なるほどねえ」

それきり顎に指をあてたホーリーが少しの間黙り込んだ。


「……ちょっと彼には気を付けた方がいいかなあ」

眉を寄せたホーリーが呟く。

「?何をですか、ローラちゃんのお父さんですよ」

「やっぱり僕も行くよお。 クラース氏の職業は外商人だっけ? 奴隷として海外で子供や女性売り買いしたりってのはよくあるよねえ」

あんな素直ないい子の親なのにそんなことあるわけない。 彼の言葉にサラが呆れた。

「そんな必要ないですよ。 せっかく招待して下さってるお相手に失礼じゃないですか」

「目に見える失礼を働くわけじゃなし。 君は物を知らない上に、何でも正面から真に受けすぎだからねえ」


若干むっとしかけたサラが口をつぐんだ。

それでも、何となく思っていたが、たしかにホーリーはかなり物知りである。
彼女が聞いたことのない言葉をいくつも知っている。

彼の言いぐさは置いても、きっとホーリーは自分を心配してくれているのだとサラは思い直した。


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