
ジェンダー・ギャップ革命
第7章 愛慾という桎梏
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若松は、えれんを待ち伏せていた。近くに待たせていたタクシーに促されたえれんと彼女を見送って、織葉は帰路とは真逆の方角へ足を向けた。
えれんは、贔屓と言って良いほど愛津を重宝していた。それでなくても私的な感情で物事を決めたことのない彼女のさっきの行動は、何かの間違いとしか思えないが、現に愛津はここにいない。
若松に相談したのが軽率だった。悔いても愛津は戻ってこないが、いくら苦慮していたからとは言え、あまりに周りが見えていなかったのだと今になって自覚する。
斎藤で気付いているべきだった。あの男が英真の親友を蔑ろにしたのは事実だが、あの時、えれんは本当に顔も知らない女を振り回した彼の過失を咎めるために、訴訟したのか。織葉と交流していた頃を懐かしんだ彼の未練こそ、やはり彼女に行動させたのではなかったか。
足早に駅に到着して、発車間際の特急電車に駆け込んだ。
おそらく織葉は最速で、収容所へ移動した。
エントランスの呼び鈴を鳴らしたかけた時、役員用の出入口に、見覚えのある女が出てきた。
「えっ、織葉さん?!お疲れ様です……ご用ですか?」
えみるが、目を丸くして走り寄ってきた。
近くで見ると僅かに跳ねた遅れ毛に、艶のある地肌の覗いた化粧──…いかにも仕事帰りのえみるは、それでいてひと目で彼女と分かるくらい、チェリーピンクの頭の天辺から大きなリボンの付いたブーツのつま先まで、身なりにこだわっているのが分かる。
「愛津ちゃんのこと……」
その名前を呼んだ瞬間、張りつめていた胸中がほぐれるような錯覚がした。こうも愛おしい名前。
織葉は、屈託ない目で自分を見つめるえみるに本題を切り出す。
