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ジェンダー・ギャップ革命

第7章 愛慾という桎梏

 

* * * * * *

 愛津は、蒼白な顔のえれんが何を耳にしたかも聞き出せず、仕事も手につかないまま定時を迎えたところで、業務連絡のために見えたはずの月村に連行された。

 えれんより数歩遅れて戻った昼下がり、若松が訪問していたことと、あれから織葉がよそよそしかったことは、混乱しながらに確信した。だが、えれんも愛津に素っ気なくなり、英真達は目も合わせてこなかった。

 収容所の所長を務める月村逸花──…。

 物腰穏やかで、制服を身につけていなければ、事務か福祉に携わっていそうな佇まいである。

 織葉より一歳上の彼女は、いきなり愛津に手錠をかけた。


 その彼女の運転するトラックの助手席で、愛津の胸はざわついていた。不安な気持ちを抱えた道中ほど、短く感じる。

 トラックは、あっと言う間にかつて工場だった施設の脇に停まって、月村は愛津を引きずり出した。


「来て」

「月村さん、どうしてですか。どういう状況ですか?!」

「愛津ちゃんには、業務妨害罪の疑いがかかってる」

「……っ?!!」


 手錠は、やはり何かのトレーニングやトライアルではなかったらしい。

 愛津は有無も言わされないで、陰気な回廊を降りていった先の扉の向こうに押し込められた。

 鉄錆の匂いや、女特有の湿り気が、そこにはまだ染みついていた。


「出して!!私は何もしていません!詳しく聞かせて下さい……月村さん!!」


 手首が折れるかと思った。小指球が破裂するほど扉を叩いても、愛津の声が反響するだけ。

 諦めかけた愛津の耳に、新たに近づいてくる足音が聞こえた。

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