
ジェンダー・ギャップ革命
第7章 愛慾という桎梏
「グォ……ふがぁぁっっ!…………」
幻聴と聞き取れるほど微かな声が、地の底から這い出していた。
織葉はえみると、収容所本館のエントランスにいた。
受付窓口は締まったあとで、地階からこぼれてくる咎人達の叫喚が、余計に鼓膜を攻め苛む。
彼女らしからぬ雰囲気が、えみるをどこか苛立たせていた。
愛津とは、休みに出かける仲だったと聞いている。友人の投獄は、彼女なりに納得のいかないところがあるのだろう。
また、呻吟が地獄を沸き上がった。耳にするだけで総身の体温が抜かれるようだ。
「愛津ちゃんも、あんな目に……」
「あの子は、あんな目に遭っていません」
えみるの口調は、職務中の彼女のそれだ。反面、楽観的にも聞こえるのは、気のせいだ。彼女の目は、どこか暗い一点を見据えている。
「VIP待遇ですよ。傷一つ付けなくて良い、ということです」
「え、……」
「卵子だけ提供させろ、と。ふふ、可笑しいくないですか?なぶられ者にならない、命の危険もない代わりに、一生、子種の素材を搾られるなんて。友達としては安心だけど、私だったら屈辱的で生きていけな──…っ、織葉さん?!」
最後まで聞いていられなかった。立ち眩みと衝動が、織葉をえみるの肩にしがみつかせた。
えれんの身内でさえなかったら、あの扉を叩き開いて、愛津の居場所を探していた。ここの職員は、警察とは違う。えみるのような新卒上がりや、月村やありあ達のように、百八十度別の業界から転職してきた人間ばかりだ。太刀打ち出来ないはずはない。
だが、織葉はまだ冷静だ。えれんの立場を考慮出来るだけの理性は残っている。
