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ジェンダー・ギャップ革命

第7章 愛慾という桎梏



「おーるは」


 恋人が戯れるほど軽く、えれんが織葉に腕を絡めた。

 彼女の匂いや温もりは、かけがえない。数ヶ月前ならここで織葉からキスして、整えたばかりのバスローブをまたはだいていた。

 えれんを信じている。

 崇拝にも等しい信頼を傾けながら、一方で、それさえ単純な畏怖に過ぎなかった可能性が頭を掠めて、冷たいものが背筋を走る。


「愛してる……お義母様」

「ふふ。どうしたの、急に」

「お義母様が私のこと、希望だって言ってくれていた頃のこと、思い出していて」

「ああ、それで、強くなったなんて……本当に恥ずかしいから、私、あんなうじうじして」



 彼女だけのものであり続ける。


 この想いが薄らげば、織葉には何も残らない。何も残ってはいけなかった。





 罪悪感の募るばかりの穏やかな時から一夜明けて、数日振りに、「清愛の輪」は緊張感に包まれた。

 度々、英真達の気にしていた川名有弘という配信者のサブアカウントに公開された動画の一つが、注目を集めた。
 動画は、彼と長沼の短いコントで、非婚の女を貶す内容だ。白々しい女の扮装をした川名が、エリート会社員を気取った長沼に好意を寄せるところから始まるそれは、川名が長沼の気を引こうとあの手この手を尽くすものの、彼は一向に靡かない。仕舞いに男性不審になった川名は、長沼にこう吐き捨てる。結婚なんて、こっちから願い下げよ。あたしが政治を動かして、ブスも喪女も幸せになれる社会を作るんだから!


「これ……神倉さんに喧嘩売ってる?」

「コメント欄は、好意的……。サクラ?」


 英真達がざわつく中、織葉もSNSを開く。
 アカウント未所持でも閲覧出来るものから調べていくと、異性愛者を自覚しているユーザー達が川名の動画に感銘を受けていることが分かった。

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