
ジェンダー・ギャップ革命
第7章 愛慾という桎梏
えれんにバスローブを被せて、織葉は彼女の残滓をティッシュで拭った。飲みかけのシャンパーニュに手を伸ばす。
随分と昔のことが頭をよぎった。
二十年も前の昔だ。
あの頃は、自分が恋をするなど想像もしていなかった。養母への想いが全てだったし、か弱い彼女に希望だ支えだという愛着を一身に受けて、少なからずロマンチックな気分に酔っていた。
「お義母様、泣かなくなったね」
「涙脆い方が、好き?」
「強くなったなと思って」
えれんもグラスを持ち上げた。
昔の話は恥ずかしい、まだ覚えているの、などとぼやいて、彼女がワインで喉を鳴らす。
穏やかな夜だ。先日からは考えられない。
えれんの任期も更新されて、当分は差し迫った仕事もない。愛津とのことを打ち明けるなら今ほど適した時期はないが、織葉は今夜も機会を逃しかけている。
どこまでが許容範囲で、どこからが不義か。
えれんとの関係も知らせず愛津の好意を得たのは、そもそも間違いだったのではないか。恋愛感情とは別の動機だったとしても、伏せている時点で、織葉はえれんに対するのと同じ質量の後ろ暗さを、彼女にも持て余している。
