
ジェンダー・ギャップ革命
第6章 異性愛者差別
ありあが男とホテルにやって来たのは、現役以来だ。
SMクラブの人気キャストだった頃、客が基本料金だけを払って、恋人らしい時間を過ごしたがることがあった。しかしえれんの管轄下で働くようになってから、水商売は疎か恋愛も疎遠になって、外泊は「清愛の輪」のメンバーで行った温泉旅館が最後だ。
ただし、ありあと英治は、ホテルのラウンジに入っただけだ。
夏季限定のアフタヌーンティーは、客層のほぼ百パーセントが女だ。稀に父娘と思しき二人連れを見かけるだけで、彼女らは本当に血縁がある。
ありあ達も例にもれなく、目玉のティースタンドをローテーブルに立てていた。
三段あるプレートにはマーメイド着想のスイーツやセイボリーが盛りつけてあって、冷たいウェルカムティーの入っていたグラスは、折れそうに細い持ち手に青いリボンが結ばれている。ほんのりシャンパンの風味があった。ティーメニューはおかわり自由で、ありあはフィンガーサイズのシェルの形のハンバーガーを咀嚼しながら、紅茶のお品書きに目を通していた。
