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碧と朝陽

第1章 小林朝陽

いつも通る道が桜色で溢れかえり、周りにはカップルやベビーカーを押す家族連れが多く行き交っている。

春だ。

上を見上げると、桜の木と青い空のコントラストが最高の花見日和を告げていた。

「よしっ!」

俺、小林朝陽は念願の第一志望に合格し、この春から大学生になった。

今日は大学生になり初めての授業の日、時計を確認して、時間にも余裕があることを確かめる。
今日は最高な日にする!
上機嫌で歩みを進めると

パシッ

乾いた音が鳴り響き、同時に

「ごめんなさいごめんなさい!」

と悲痛な声が上がった。

思わず声のする方を見ると、男性が女性の頬を平手打ちしたようだった。女性は頬を抑えながらその場に倒れ込んでいる。

「お前は何度言ったらわかるんだ」

今度は男性が拳を女性に向かって振り上げる。
それを見た俺は咄嗟に女性の前に飛び込んだ。

ドカッと鈍い音がなる。

「いった〜〜………」

女性の代わりに男性の拳を受けた俺は痛む頬をさする。

「お前、どういうつもりだ?プレイに割り込むなんて」

“プレイ”

この世には男性、女性という性別以外にDom、Subという性別が存在する。
“プレイ”とは支配したいDom、支配されたいSubの間で行われる行為のことであり、性別によるお互いの欲求を満たすためにすることだ。
しかし、女性に目をやると、その身体は震え、顔は青ざめている。これが正当なプレイだとは到底思えない。

「これがプレイ……?こんな公共の場で、しかも女性は震えているじゃないですか。」

この騒ぎに周りの通行人の視線も集まる。
そんな視線に気付いたのか、男性はバツが悪そうに舌打ちをして、女性を立たせると、その腕を引っ張りその場を離れようとする。

「まって」

女性の腕を掴んでそれを静止すると、小さな紙を渡す。
“Sub相談支援センター”
それを女性に握らせると、俺は腕を離した。
男性に引きずられるようにしてその場を離れる女性には生気がなく、心配になる。
が、女性はcollar(Domが関係を結んだSubに渡す首輪)を着けていたから、こちらからこれ以上の干渉はできない……。
グッと唇を噛み締める。

時計を見ると、もう9時を回っていた。

「やば!!!1限遅刻だ!!」

俺はまだざわつく通行人たちに目もくれず、走り出した。

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