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幸せな報復

第20章 夏が終わって

 だが今や、追い出したはずのその存在が、逆に問い詰めてくる。

――わたしは“悪”だったの? 本当に?
 ただ、自分を守ってたんじゃないの?
 なのに、あなたはわたしを切り捨てた……自分自身を見なかったことにして。
 でも、それじゃ何も変わらない。
 “青春”って、もっとドロドロしてるでしょ? 血が騒いで、体が火照って、心が暴れ出す――そういう季節なんじゃないの?

 恵美はベッドの上で膝を抱えた。脳裏に浮かぶのは、浩志の無垢な瞳。
 その瞳を、自分はどうしたいのか。

(傷つけたくない……でも、見てほしい。わたしのすべてを。こんな歪んだ心も、脆い感情も――)

 人格が二つに割れた理由は、きっと単純だ。
 正しいと思うやり方が、ただ真逆だっただけ。

 恵美の方法は「観察」し、「距離を詰める」。
 エルザの方法は「揺さぶり」、「相手の本性を暴く」。

――どっちが正しいか、なんて問題じゃない。
 でも、どっちも“本当のわたし”だったとしたら?
 この体で、心で、一人の人間を愛することは――できるの?

 彼女はそっと瞼を閉じた。
 脳裏のどこかで、エルザが笑っていた。
 優しく、寂しげに、まるで答えを知っているかのように。
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