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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 75 お客

「はい、大分進んではいるんですが、最後の詰めは佐々木課長と、あ、いや、佐々木新部長と明日やろうかと…」
「そうか、そうだな新部長だな…」
 山崎専務は意味有り気に笑みを浮かべる。

「ま、大原くんのやり易い様に選んで構わないからな」
「はい、ありがとうございます」
 すると横で
「課長から部長になったんですね、すごいわぁ…」
 と、律子が小さな声で呟いたのだ。

「あ、うん、山崎専務の計らいでね…」
「すごい出世ですね」
「結果的にはそうなるかな」
 どうやら内心律子は、やはり、ゆかりを意識しているようであった。
 それはそうである、私の様子を見れば、ゆかりと私の関係は明白なのだ。
 ましてや勘の良い、聡明な律子なのである、分からないはずがないのである。
 だが、律子はさすが、銀座の女、と自称してくる程にそんな彼女自身の想いは決して表面には出してはこないのだ。

 いや、出してこないだけなのであろう… 
 私は内心はそう思っている。
 今もそうなのだが、あの土曜日の逢瀬の後に慌てて帰った私の様子には、決して心中穏やかではないはずなのだ。
 そしてその想いの強さや重さは、今こうして私を見てくる目の奥の光が物語っているのである。
 他の客と私を見る目の光が全く違うのだ。
 正に一目瞭然なのだ。

「律子さん、お願いします…」
 他のお客からの指名が入ったらしく、ボーイが声を掛けてきた。

「はい…」
 律子は仕方ない様な感じで返事をする。

「まだ帰らないで下さいね…」
 席を去り際にそう私の耳元で囁いた。
 するとママが
「律っちゃんは最近あのお客様からよく指名されるのよ」
 と、ママが私に話してくる。

 私はそのママの言葉に無意識に反応し、律子の方を見た。
 そこには確実に私より5、6歳は若そうな真っ黒に日焼けして見るからに羽振りの良い感じの若社長然とした男が座っていたのである。

「○○ファイナンスの二代目若社長よ」
 ママが言ってきた。
 『○○ファイナンス』とは、バブルがはじけ出した大量の不良債権を片っ端から買い取って、取り立てている目下イケイケの金融屋である。
 そこの二代目若社長が律子を気に入り、連日の様に通っているのだという。

「まあ、律っちゃんもプロの銀座の女ですから上手に対応はしてますけど…」
 と、ママが言う。




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