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シャイニーストッキング

第2章 絡まるストッキング1

 67 芝居

「もしもし、私だ…」

「あっ、部長ぉ、ちょうど電話しようと思ってたんです」
「お、おお、そうだったのか…」
 そしてまず自分を落ち着かせる為にもすかさずゆかりより先に、今日の資産運用管理部の会議の話しを始めた。

「ええっ、そんなに飛ばしたんですかぁっ」
「うん、まぁな、ここが、今日が一番大事な場面でもあるからな」
「うわぁ、わたしもそんな部長の姿見たかったなぁ」
「うん…」
「あっ、そうなんですよっ、見たかったといえばっ…」

 きたっ、いよいよだっ……

「実は、あのっ『黒い女』の蒼井美冴さんが………」
 『黒い女』の蒼井美冴が『黒くない女』になって、突然出勤してきた…のだと、やはり、かなりの興奮気味で話してきたのである。
 その興奮の口調がかなりの興奮と衝撃を私に伝えてきた。

 そしていよいよだ…

「ええっ、なにぃっ…」
 絶句のフリをしたのだが…


「そうなんですよっ、しかもっ…」

 やったぁっ、いい出だしである…
 ゆかりは私の驚きの演技に全く疑いもせずに話しを続けてきたのだ。

「しかもっ、パステルカラーの色合いの服を着て出勤して……」
 仕事用に白いブラウスにまで着替えて…
 そして今朝の会話の様子を話してくるのである。

「『黒い女』は卒業…元の自分に戻ったと…」
 正に昨夜、私に美冴が話した内容であったのだ、だが、ここで油断してはダメなのだ。

「そ、そうなのかっ…」
 芝居は続けなくてはいけないのである。

「しかも、かなり美人で、それに、かなり若返って見えて…」
 そう、かなり若返っていたのはよく知っている。

「ええ…」
「そして夕方ついに面談したんです…」
 興奮気味のままに面談の話しに進んでいった。
 ここまで私の芝居は上手くいっている。
 脇の下にイヤな汗を感じていた。

「それがっ、保険制度の話しをすぐに理解して……」
 ゆかりが散々苦労して思案し、試行錯誤をして山崎専務にプレゼンしたあの新形態の保険内容や、コールセンターを上手く利用する全く新しい保険契約システムの構築等をあっさり論破し、挙げ句にはコールセンターを利用する保険契約システムに使えそうな、旅行代理店時代に作成したシステムプログラムの雛形までも持っている、と一気に話してきたのである。

「な、なにっ、契約システムプログラムだってっ…」





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