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シャイニーストッキング

第7章 絡まるストッキング6 和哉と美冴2

 90 ザワザワ…

『なんかぁ、やっぱりぃ、和哉と来たかったなぁって考えたら、急にザワザワしてきちゃてぇ…』
 
 今度は、いや、今夜に限っては、こんな真実の甘い言葉と声が、僕の心をザワザワと騒つかせてきたのである…

「ザワザワか…」
『うん、ザワザワ…』

「そうか…」
 どうしても今は、いや、今夜は、話しが続かない…
 だが、そんな僕の様子に彼女は友達の家に居るという、さっきの僕の嘘に気遣かってきた。

『なんかぁ、お友達と一緒のところごめんなさいねぇ…』
 そんな真実の言葉に今度は罪悪感を感じてしまう。

 友達か…、確かにある意味、間違ってはいないかも…

 昔の、いや、五年前の友達…

 一瞬、脳裏に今、隣の仕切りドアの向こう側にいる美冴さんの姿が浮かんできた。

 いや、違う、友達ではない…

 全く意味が違うのだ…

 僕にとっての、この五年間の全ての想いの象徴なんだ…

 そう、いつも、常に、僕の頭の中に、心の中に居る存在…
 再びザワザワと心が昂ぶってきていた。
 そして、いつの間にか真実に対して感じていた罪悪感は消えていた。

「うん、そろそろ…」
 そうなのだ、こうして話していればいるほどに、美冴さんはどんどん遠くに逃げて行ってしまうのだ…
 今夜は真実と話している場合ではないのである。

『あっ、うん、ごめんなさい…』

「あ、いや、こっちこそ…」
 だが、ごめんとは言えなかった…

『うん、じゃあ、また、あ、明日ね…』

 すると、そのタイミングでスッと隣の仕切りドアが開いた。
 美冴さんが電話を終えたのである。

「あ、うん、じゃ、また…」
 僕もそのタイミングで電話を切った。

「あっ、ごめん、切らなくても良かったのに…」
 美冴さんはそう言ってきた。

 僕はその言葉に一気に焦燥感が湧き起こってくる。

「あっ、いえ…」
 
 ヤバい、帰る気だ…

 ヤバい…

 マズい…

 ザワザワが増してくる。

「じ、じゃあ、わたし、帰るわね…」
 すると美冴さんは、明るい声でそう言ってきたのである。

 マズい…

 ヤバい…

 帰られてしまう…

「えっ…」

 僕は慌てて美冴さんの手を握る。
 すると美冴さんは僕の目を見つめてきたのだ。

 僕にはその目が揺れている様に見えていた…




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