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　65　部屋の中…

「あ、ここです、２階の203号室です」

「あら嫌だわ、本当にわたしの家に凄く近いじゃないの…
　偶然とは思えないわぁ…」
　そんなため息が漏れてしまう程、本当にすぐ近くであったのだ。

「なんか偶然とは思えない近さだわ…」
　それにこの近さで本当に今日まで再会しなかった方が、不思議な位といえる程であった。

　でもわたしは離婚して傷心しながら実家に戻ったのだが、すぐに実家を出て三軒茶屋、太子堂エリアに住み、そしてゆうじが亡くなってからは約２年間ほぼ引き籠もり的な生活をしていたから、出会う確率はかなり低かったともいえる。
　それにあの時期は見た目も、心も、本当に『黒い女』であったから、例えお互いにすれ違っていたとしても分からなかった可能性がかなり高いともいえたのだ。

「なんか学生さんの住む典型的なアパートねぇ…
　確かわたしが社会人になって借りたアパートもこんな感じだったわぁ」
　少し感傷的な気持ちになっていた。

　ガチャリ…
　部屋の鍵を開ける。

「さあ汚いですけど、どうぞ」
　
「おじゃましまぁす」

　少しだけドキドキしてきた…
　
　そしてなんとなく、自分が学生時代に初めて彼氏のアパートを訪ねた時の想いが蘇ってきていたのである。

　狭い玄関の框でヒールを脱ぐ。

「あっ、すいません、スリッパとか無いんです」
「うん、大丈夫よ」
　その部屋はいわゆる六畳一間の１DK、つまりワンルームであり、本当に学生が借りる典型的な部屋と云えた。

　そしてそのフローリングの六畳間にはシングルベッドと、机と、小さな簡易テーブルが置いてあり、部屋が目一杯であったのだ…

「あ、適当に座ってください…
　今、コーヒー煎れますね…」
「ありがとう…
　なんかちゃんと整理してあって、部屋も綺麗じゃないの…」
　わたしはベッドに寄り掛かかるカタチで座る、そして、なんとなく爽やかな印象の和哉の様な部屋らしいな、と思っていた。

　わたしはキョロキョロと部屋の中を目を動かしながら、チェックをしていく…
　部屋には女性の影を感じる飾りや、装飾等は全く感じられない。

　あまり彼女が頻繁に来訪している感じはしないなぁ…
　部屋をチェックする限りはそう感じられたのである。

　そういった飾りや装飾品等はなくシンプルであった…

　コーヒーの香りが漂ってくる…