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　115　因果の流れ

「ふうぅ…」
　わたしは電話を切って思わずため息を漏らしてしまう。

　なんてことなんだ…

　なんていう現実なんだ…

　こんな偶然が本当に起こるんだ…

　わたしは鳥肌が立つ程に驚いてしまっていた。
　
『桜新町です…
　美術館の近くです…』

　なんてことなんだろう、和哉はわたしの実家の目と鼻の先に、『駒澤大学』に入学の為に上京してから四年間も住んでいたという…

　それも本当の偶然であるはずなのだ…

『東京』『駒澤大学』
　この二つのキーワードからこのわたしの実家のある『桜新町』を引き当てた。
　こんな偶然、こんな現実、事実、起こり得る筈がない。

　だが現実にある…

　相当な確率の筈である…

　見えない蜘蛛の糸どころではない、何か不思議な、得体の知れない何かに弄ばれている様な感じがする…

　携帯電話を起き、ベッドに横になり、わたしはそうモヤモヤと考えていた。

　和哉が大学入学と共に上京してきた頃は、わたしは隣町に住み、『ゆうじ』と付き合っていた。
　そしてその後の『ゆうじ』の死によるショックで、今度は約一年半近くの間、自宅に引き籠もっていた。
　そして『黒い女』として、全ての欲望的なモノをシャットアウトし喪に服して生きてきた。

　だから和哉とは遭わなかったのだ…

　もしかしたらすれ違いレベルでは遭っていたかもしれないが、あの『黒い女』の状態ではわからなかった筈であったのだ。

　東京…

　駒澤大学の近く…

　桜新町という街…

　昔と同じチェーン展開のファミレス…

　全てのピースを和哉は探し、組み合わせ、そして甥っ子の康徳という存在を介してついに引き当てたのである。
　そして和哉の執念、いや、わたしに対する想いの強さがこの不思議な因果という流れを作り、わたしを引き寄せたのだと思うのだ。

　この必然的な流れには逆らえない…

「明日だ…」
　思わず呟いてしまう。

　明日でこのモヤモヤとした、そしてこの五年間ずっと脳裏の隅にしまって鍵を掛けていた禁断の想い出、この時間を止めるのだ…

　そして止めてスッキリとして、本当に、これからの新しい第一歩を歩み始めるんだ…