テキストサイズ

シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 81 最悪でひどい夜…(5)

「あぁ……ふぅぅ……最悪だ…わ……
 あぁ…ホント、ひどい……夜…だわ……」

 本当に最悪で……

 ひどい夜………
 
 それは、わたしの天の邪鬼な本心から沸いてきた苛立ちのコトバ…
 認めたくはない、相反する矛盾な想い。

 いや違う…
 これは彼への愛情の自覚の澱みからの、略奪という欺瞞。

 そして、彼に対する愛情を素直に伝えられない…
 いや、伝えるわけにはいかない…
 という『最悪な…』本心の自覚。

 そしてその矛盾を認めてしまった今夜の…
『ひどい夜…』
 という、情愛の残滓からの苛立ちのコトバ。
 
 それがわたしに…
『最悪な…ひどい夜…』
 と、囁かせたのである。

 だから、我慢していたのに…
 あの松下秘書という下卑な存在がわかってしまったせいで、自身のヒガミという小さな心の歪みを生まれさせ…
 その卑下たる想いがトリガーとなって…
 略奪という昂ぶる欲望が生まれてしまったのだ。

 だが、その欺瞞の昂ぶりは…
 この彼の慈愛という愛情にあっけなく負けてしまい、心の中に灯った熱い火が、すっかりと消されてしまったのである。

 いや、彼の愛情という欺きであり詐りでもある欲望の海が…
 ううん、違う…
 そんな彼の欲望の海に…
 独占欲という濁情を抱いたわたしが、あっけなく彼の海に飲み込まれ、溺れてしまったのだ。

 それも…
 快感というエクスタシーの大波に心を壊され、深い海の底へと、沈められてしまったのである。

 本当は、わたしが彼を飲み込み、沈め、溺れさせるつもりだったのに…

 わたしのオトコにするつもりだったのに…

 本当に最悪で…ひどい夜…
 となってしまった。
 
「あぁ、ホント…最悪…だわ……」
 わたしはそんな矛盾という、最悪な想いを逡巡しながら彼を見つめ…
「ねぇ…それちょうだい………」
 と、彼の手にある、飲みかけの缶ビールを指指す。

「あ、う、うん…」
 さっきからの、このわたしの呟きの意味を彼なりに察したのだろうか…
 その慈愛の目を少し揺らがせながら、缶ビールを手渡してきた。

 手渡されたこの缶ビールは何気に重く、そして冷たい…

「ふうぅ、すっかりノドが渇いちゃった…」

 いや、喉の渇きではなく…

 コトバにできない心身の渇望といえる…




エモアイコン:泣けたエモアイコン:キュンとしたエモアイコン:エロかったエモアイコン:驚いたエモアイコン:素敵!エモアイコン:面白いエモアイコン:共感したエモアイコン:なごんだエモアイコン:怖かった

ストーリーメニュー

TOPTOPへ