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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 98 変わった空気感

「じゃ、越前屋さん、常務さんに分かり易く説明して…」

「はぁい…」
 と、わたしは例のシステムプログラムの進捗状況を越前屋さんに振った。

 なぜならこのプログラムの進捗状況に関しては…
 問題なく順調に進んでいる、という事以外、わたしには把握、いや、理解し切れていないから。
 
 あと、とても今の心境では、こんな説明をする気持ちにはなれないから…

「ええとぉ、SEの中島さんによりますとぉ…………………………」
 
 だけど、このいつも明るく、朗らかで、そして屈託のないキャラの越前屋さんの説明が始まると…
 なんとなく、この対峙の場といえ、わたし、美冴さん、そして松下秘書さんの三人の間に感じていた見えない緊張感によるピンと張り詰めていた常務室内の空気感が少し緩んだ様に感じてきていた。

 そしてそれはわたしの心境の変化も然りといえ…
 この松下秘書がコーヒーを配膳した際にカチャカチャ…とカップとソーサーを鳴らした程に彼女から伝わってきた…
 緊張?…
 揺らぎ?…
 動揺?…
 等々の不惑さからと、さっきまで感じていた彼女の勝ち誇ったかの様な視線が、いや、そう感じていただけであろうと思える様に、今度は弱々しく見受けられるからである。

 そしてもうひとつ…

 そんな彼女の不惑を感じながらコーヒーをひと口飲んだら、不思議な事に、それまでのわたし自身の不惑な心の揺らぎがスゥッと消え…
 この常務室に入った瞬間に感じた疑惑の想い、思いが本当に荒唐無稽な、あり得ない程にくだらない疑惑、妄想に感じられてきたのだ。

 だって…
 銀座のホステス=この松下律子秘書
 常識的に、こんな構図はあり得ないであろうから。


 

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