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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 92 対峙の時(17)

 え、まさか?…

 心に一瞬にして一気に浮かんできた大きな疑問、疑惑の思い…

 それは…

 本当は、ホントは、佐々木ゆかりではなくて、この…

 蒼井美冴さんなのか?…という疑惑。

 わたしはコーヒーを彼女の目の前に置きながら、一瞬にしてそう逡巡してしまっていた。

 そして…
 ザワザワと大きく心を騒つかせ、揺らがせ、動揺してしまう。

 それは…
 三人で横並びでソファに座っている、蒼井美冴さんの隣の、つまりは真ん中に座っている佐々木ゆかりの前にコーヒーを置こうとする時に…

 カチャカチャカチャ…
 と、カップとソーサーが、このわたしの動揺を顕すかの様に、いや、その不惑の思いからの動揺と心の激しい揺らぎによって指先を微妙に震わせて音を鳴らしてしまったのだ。

 そう…
 不惑と揺らぎと動揺を顕す音を。

 カチャカチャ…
 カップとソーサーの震えが止められない…

「ど、どうぞ…」
 せっかく、さっきの対峙の瞬間には、シャネルの残り香というわたしの仕掛けのカラクリに気付いた佐々木ゆかりを絶望的に陥れ、そして、全てに於いての彼女に対して『勝ち誇り』という自負に昂ぶる思いさえ感じたのに…
 この自身の動揺を顕す音により、その『勝ち誇り』という思いは一気に吹き飛び、消えてしまった。

 そしてどうやらそんな心の動揺の顕れは、彼女、佐々木ゆかりに伝わったらしく…
「すいません」
 そう先程の声音とは違い、はっきりと応え、そしてチラとわたしを一瞥してきたのである。

 その一瞥はまるで…
 そんなカップとソーサーをカチャカチャと揺らす程のわたしの心の揺れ、揺らぎを覗き込む目の様であった。

 そして…
「はい、どうぞ…」
「あ、すいませぇん、ありがとうございますぅ」
 と、なぜかその隣の越前屋さんに対しては、一瞬にしてその揺らぎは消えたのだろうか…
 震えなかったのである。

 わたしはそんな激しい心の揺らぎといえるコーヒーの配膳を終え、大原常務の斜め後ろに控え…
 心を必死に落ちつかせようと努める。

 この初めての佐々木ゆかりとの対峙は、蒼井美冴さんという思わぬ伏兵の登場により…
 一進一退といえると思う。
 
 そして、昨日の新潟支社での遣り取りの説明をしていく…



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