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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 91 対峙の時(16)

 わたしの中でのムスクの甘い香りの記憶とは?…

 それは彼、大原浩一常務が、いや、まだ本社の本部長以前の『コールセンター部』部長だった時…
 つまりは、わたしが山崎のおじさまに連れられて銀座のクラブに通い始めの頃…
 そしてわたしが彼に一目惚れをし、自ら急接近を仕掛け始めた頃に遡る。

 確か、毎週の様に通っていた観劇の帰りに誘ったとある夜に、一度だけ、それも一瞬だけ感じたあの甘い香り…
 ほんの僅かで微かに感じただけなのだが、なぜか心に残され、蘇ったあの甘いムスク系の香りの記憶。

 別にあの夜、あの時に、何かを思い、考えた訳でもない…
 なんて事のない記憶。

 なぜ、あんな思いを記憶し、今、浮かび、蘇ってくるのか?…

『あっ、そうか…』

 彼の唯一の、プライベートエリアを共有できたと喜々した思いの…
 あの『カフェバー波道』の店内に漂っていた、サーファーにはポピュラーな香りの代名詞といえる甘いムスク系の香りと通ずるからなのか?…
 だから今、咄嗟に結び付き、そんな思いと記憶が浮かんできたのだろうか?
 いや、確か蒼井さんとは偶然に出会っただけと…云っていた筈。

 そしてもうひとつ、その一瞬の一瞥で更にわたしの心を揺らがせる素因があった…
 それは彼女の脚の、いや、ストッキング脚の美しさ、魅惑さである。

 わたしは自らのストッキング脚の魅惑さには自信があった…
 それは先の佐々木ゆかりとの対峙の際に、確実な思いの確信をしたほどに自信がある。

 だが、この蒼井美冴さんのソファに座る膝丈スカートから伸びるストッキング脚は、このわたしの自信が揺らぐほどの美しさと魅惑さを一瞬にして伝えてきたのだ…

 それは肉惑的なラインの美しさ…
 魅惑的な艶めく光沢…
 そして限りなく薄いストッキング。

 これらは正に、彼、大原浩一というストッキングフェチの性癖嗜好を満たすに値するストッキング脚のポイント…
 つまりは、わたしが目指す、いや、日常的に意識している彼の好みを満たす重要なポイントなのである。

 これほど魅惑的なストッキング脚の女を見た事がない…
 わたしの心は、この一瞬にして一気にグラリと大きく揺らぎ、動揺してしまったのだ。

 えっ、まさか?

 そして大きな疑問、いや、疑惑が心に浮かんできたのである。

 まさか…



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