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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 82 対峙の時(7)

 コン、コン…
 8月21日木曜日午後2時45分約束の時間ちょうどに常務室のドアが鳴った。
 
「どうぞお入りください」

 わたしがそう声を掛けると、ゆっくりとドアが開き…
「失礼します」
 と、おそるおそる常務室のドアを開け、佐々木ゆかり準備室室長が一歩中に入ってきた。

 わたしは彼女のその一歩目の瞬間を、そしてその表情を凝視した…
 なぜなら、果たして彼女、佐々木ゆかりはこの常務室に微かに漂っているであろうシャネルNo.19というわたしの纏っている香水の香りのカラクリに気付くのであろうか?
 という思いを確認したかったからである。

 そして彼女は見事に反応した…
 それはこの常務室に一歩を踏み入れた瞬間に見せた戸惑いと動揺、そして不惑の揺らぎの微かな表情の変化をし、次にわたしの顔を見てきたその一瞬の様子、仕草、表情は、わたしが今まで仕掛けてきていたシャネルという香水の残り香のカラクリに気付いたという反応に感じられたから。

「佐々木室長様初めまして、大原常務専属秘書を承っております…
 松下律子と申します」
 わたしはその彼女の動揺を感知し、すかさずそう告げて…
「さぁどうぞこちらへ…」
 常務室のソファへと導きながら、もう一度彼女の目を確認し、そして…

 勝った…
 見事に先制パンチを与えられた…
 と、彼女のその表情の変化、目の揺らぎを見てそう思ったのだ。

『勝った…』
 それは決して勝ち負けという勝負事ではないのだが…
 今日、この常務室に於いての彼女、佐々木ゆかりという女、オンナとのこの対峙は、いや、この対峙の瞬間は、正にわたしにとっての大切な勝負事に値する瞬間であるから。

 それは、あの夜に、彼、大原浩一という男、オトコを、彼女から奪うと心に誓ったから…
 だからこそ、この正式な初対面という対峙のこの瞬間がわたしにとっては大切な勝負事に等しく、彼女に対しての先制パンチに値し、そしてわたし自身の立ち位置を優位に運ぶ本当に大切な瞬間なのである。

「あ、は、はい、失礼します…」
 そんなわたしの想いは、そう呟き、ソファに座りながらわたしを見てくる彼女の目を見て確信をした。

 その彼女の表情、目の揺らぎは…

 わたしが仕掛けてきたシャネルの香りのカラクリに気付いた…

 絶望の想いを露わにしているから…



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